【パリ=島崎桂】閉会を告げる木づちの音に続く、鳴りやまない拍手・・。2週間の厳しい交渉が生んだ「パリ協定」は、出席した各国閣僚や環境・市民団体代表らに歓喜をもたらしました。議長国フランスのオランド大統領は、「パリでは数世紀にわたり、いくつもの革命が起きた。しかし、きょうの革命こそ最も美しく、最も平和的な革命だ」と述べ、喜びをあらわにしました。
「パリ協定」の意義は、現状では不十分な各国の取り組みを定期的に見直し、強化していく仕組みにあります。各国は2023年から5年ごとに取り組みの評価を受け、見直しの際には過去の目標を上回る「最大限の野心を反映する」ことが求められます。
とりわけ、過去の温室効果ガス排出に重大な責任を持つ先進国は、他国に先んじて排出のピークを脱し、急速な減少に転じる必要があります。
会議を前に、各国が温室効果ガスの削減目標を示す中、世界第5位の排出国である日本政府は「2030年に13年比で26%減」(1990年比で18%減)との目標を提出。日本と同様に30年を目標年とする欧州連合(90年比40%減)やロシア(90年比25〜30%減)など他の主要国に比べ極端に低い目標となっています。(グラフ)
パリ協定とともに採択した決定文書(法的拘束力なし)は、25年や30年を目標年としている国に対し、20年までに目標を改めて「提出または更新」することを要求。18年に、目標引き上げを促す「促進的対話」を行うことも決めました。今後、日本政府がこれらの機会を通じて目標の抜本的見直しに踏み切るかが問われます。
先進国が表明していた「2020年までに年1000億ドル(約12兆3000億円)」の途上国支援については、25年までに上積み目標を設定することが決定文書に盛り込まれました。中国やインド、ロシアなどの新興国を念頭に、先進国以外の「自発的な支援」も求めています。
パリ同時多発テロ後の厳戒態勢で行動が制限される中、世界中から訪れた市民は「人間の鎖」や「市民サミット」、集会やデモを実施。気候変動の被害を告発し、各国政府の姿勢をただしました。市民の大多数は、石炭・石油など化石燃料の使用停止と再生可能エネルギーの活用を主張しました。
南米やアジア、アフリカ、島しょ国など43カ国の政府代表も協議の中、「2050年までに再生可能エネルギー100%を目指す」と宣言。環境NGOは「世界が見習うべきりリーダーシップを示した」と称賛しました。`
パリ協定は、問題の糸口を示したにすぎません。各国には、パリ定の目標に見合った自と取り組みが求められいます。
パリ協定のポイント
▽産業革命前からの世界の気温上昇幅の目標を2度未満とし、1.5度未満に抑えるよう努力
▽今世紀後半に「実質ゼロ」となるよう温室効果ガス急激な削減を目指す
▽各国に温室ガス削減目標の提出と5年ごとの見直しを義務付け
▽世界全体の排出削減の取り組み状況を5年ごとに検証。最初は2023年に実施
▽先進国は途上国に資金支援する義務を負い、他の国は自主的に支援できる
▽各国は温暖化による「損失と被害」の回避と最小化、対策実施の重要性を認識
▽途上国支援で、先進国は20年以降も取り組みを継続
「妥協許さない」レッドライン・・市民・NGO
【パリ=野村説】仏パリ郊外で開催している気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の会場で12月11日、世界中から集まった市民や環境NGOが、妥協を許さない一線「レッドライン」を模した40メートルの赤い布を地面に敷くデモを行いました。(写真)
参加者はレッドラインの脇に並び、手拍子を打ちながら「(二酸化炭素の)排出ゼロ」「環境に正義を」と唱和。参加していたティーナさん(学生)に出身をたずねると「オーストラリアよ。環境意識が低くて恥ずかしいわ」との答え。記者が日本から来たと自己紹介すると、「あなたも同じね」と返されてしまいました。
安倍政権は脱石炭に足を踏み出せ
安倍晋三首相は、12月13日、COP21の合意(パリ協定)に関して談話を発表し、「世界は、地球温暖化という困難な問題の解決に向け、新たなスタートを切ります」と表明しました。「26%削減」の目標達成や「途上国の気候変動対策」への支援などを「内閣の最重要課題」にしています。
この目標は、1990年比に換算すれば「18%削減」にしかならず、先進国で最低レベルです。目標の前提となる「長期エネルギー需給見通し」は、石炭火力を増加させるなど地球温暖化対策に逆行しています。途上国の石炭火力プロジェクトには、多額の融資をしています。
「パリ協定」は、「脱炭素」を明確にしました。いま安倍政権が「最重要課題」にすべきなのは、目標を引き上げ、脱石炭に足を踏み出すことです。(君)
WWFジャパン 気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 小西雅子さんに聞く
先進国と途上国が″団結″・・歴史的意義と大きな宿題
COP21に参加したWWF(世界自然保護基金)ジャパンの気候変動・エネルギープロジェクトリーダーの小西雅子さん(気象予報士)に「パリ協定」の意義と課題を聞きました。
(野村説)
今回の「パリ協定」では、人為的な温室効果ガスの排出を将来的にゼロにしていくことが、法的拘束力をともなう国際条約として合意されました。これは地球の温暖化対策がついに世界のトップアジェンダ(優先課題)になったことを私たちに実感させ、これからの世界の方向性を示す歴史的な意義を持つものとして評価できます。
何より、参加した196カ国・地域が温暖化という人類の命題に対して、先進国と途上国という歴史的な深い溝を乗り越え、団結して取り組んでいく姿勢を示したことに大きな意義を感じます。これは各国が温暖化への危機感と協調の必要を共有したことの表れで、近年のCOPにはない参加国のモチベーション(熱意)を感じとることができました。
新たな枠組みでは、経済規模や二酸化炭素排出量などダイナミックに変化する各国の経済活動の実情を、そのつど流動的かつ柔軟に反映させ、その時点の最善策をいかに実効的に運用していくのかの枠組みづくりに世界は腐心しました。
協定は、5年ごとに排出量削減目標の提出を義務付け、その都度前の目標を改善することになりました。またその達成のために国内対策の整備が義務付けられており、各国が自国に持ち帰ってやるべき多くの宿題を課しています。
パリ協定を受けて、日本も脱炭素化に向けた世界の潮流に国内対策をいかに符合させ、取り組みを強化させていくのかがまさに問われてきます。
日本には再生可能エネルギーが成長産業となり得る豊かな環境条件も技術もあります。
エネルギー問題の専門家、槌屋治紀氏によれば、これまで私たちは、化石資源を地中から収奪することによって営みを得る「狩猟型」の経済活動を続けてきました。
これからは自然が生み出す再生可能エネルギーを刈り取る「農耕型」の経済活動に移行するべき、エネルギーの大変革期を迎えているのです。
ここに早く気づき、早く手をうった者こそが排出ゼロを目指す世界経済の中でリーダーとなれるのではないでしょうか?
(「しんぶん赤旗」2015年12月14日より転載)