四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求めている「伊方原発をとめる会」は5月20日、原子力規制委員会に対し、同日公表された伊方原発3号機の再稼働の前提となる「審査書案」の撤回を申し入れしました。
申し入れによると、伊方原発の直下にあるスロークエイク(深部低周波地震)と巨大地震の関連など最新の知見について規制委が徹底検証していないと指摘。原発で想定する最大の揺れ(基準地震動)の策定の問題点に触れ、四国電力が設定した伊方原発の基準地震動(650ガル)は「明らかに過小評価」と批判しています。
また、伊方原発の敷地は狭いため、汚染水の事故があった場合、タンクなどの処理施設を造る場所が足りないことや、大規模な地震が起きると要員や物資の搬入さえ困難な地理的条件に置かれていると述べています。
さらに、瀬戸内海が閉鎖性水域であることから、ひとたび汚染水流出の事故が起きれば、瀬戸内海が死の海になる可能性が否定できないと警告。避難計画は自治体任せで、規制基準の対象になっていないことなどを挙げて、「『世界でも一番厳しい規制基準』どころではない」と批判し、審査書案の撤回を求めています。
同会事務局次長の和田宰さんは「こんな審査書案が出たからといって、安全を担保するものではない。これでもって再稼働なんてとんでもないことです」と批判します。
船で避難あり得ない・・住民から計画に疑問視
地元住民からは事故が起きた場合の避難計画を疑問視する意見が聞かれます。
愛媛県は昨年、住民避難のシミュレーション結果を加え、広域避難計画を改定。避難計画が必要な半径30キロ圏内には7市町が含まれ、対象は13万人。シミュレーションによると、13万人が圏外に出るのにかかる時間は、避難ルートの指定や車の相乗りなどで渋滞を抑制した場合、最短で6時間15分になります。
半島のほぼ全体を占める伊方町は人口約1万人。うち約5000人は原発の西側に住みますが、事故で放射性物質が漏れた場合は原発近くの道路を通って避難するわけにいかず、半島の先端近くにある三崎港から船で大分県などに避難する計画です。
しかし、伊方原発差し止め訴訟の原告で、原発から約20キロ西の三崎地区に住む物販会社社長、長生博行さん(48)は計画の実現性に疑問を抱き、「福島事故のときは着岸すら難しく、逃げられる状態ではなかった。船で避難というのは最初からあり得ない。これを計画する神経が理解できない」と語気を強めました。
規制委前で抗議
原子力規制委員会が四国電力伊方原発について、事実上の「合格証」である審査書案を決定した5月20日、東京都港区にある規制委員会前で、決定に抗議し、伊方、川内、高浜の各原発の再稼働反対を訴える行動が行われました。再稼働阻止全国ネットワークが呼びかけたもの。強い日差しのなか「原発NO」「審査書案認めるな」などのプラカードを手にした約40人が「再稼働反対」「原発なくせ」とコールしました。
同ネットの柳田真共同代表は、高浜原発(福井県)の再稼働を差し止めた福井地裁の仮処分決定について「規制委員会の審査そのものを合理性がなく信頼できないと判断した」と指摘。伊方原発の審査が、その批判や地震など住民の不安に応えるものになっていないと述べ、「再稼働ではなく、福島原発事故の収束、被害者への補償に力を尽くすべきだ」と訴えました。
東京都板橋区から参加した坂東喜久恵さん(68)は「規制委員会の審査は再稼働ありきのものです。原発と人類は共存できません。声をあげて必ず再稼働を止めたい」と語りました。
(「しんぶん赤旗」2015年5月21日より転載)