JR北陸新幹線は3月14日、東京-長野間が金沢まで延伸開業されます。東京から金沢まで最速2時間28分で結ばれ、生活、観光など多方面に影響が広がります。一方、新幹線建設に伴う地元負担は大きく、JRから分離されて第三セクター(三セク)化された並行在来線の将来とも合わせ、課題山積のままのスタートです。
(小池光栄)
「新幹線が春を連れて、やってくる。」金沢駅に特大ポスターの文字が躍ります。「慣れなくて」と言いながら観光案内所のスタッフが、急増する外国人観光客の対応に追われています。
これまでの東京-金沢間約4時間が大幅に短縮され、飛行機の約3時間よりも速くなります。始発客の需要を見込んで、「一昨年1月から5時・6時出勤に変えた」(金沢市のタクシー会社)ところもあります。
「新幹線はたしかに、利便性はある。石川から東京が日帰り圏となって商業圏が広がる」。こう語るのは、「公共交通を守る石川の会」事務局長の種池洋さん(72)です。「一方で、これまで富山などから金沢に来ていた人が、新幹線で『東京へ』とならないか。華々しい宣伝が先行して、県民負担や、在来線の通学定期や運賃の上昇、住民の足をどうするかは置き去りにされたままだ」と懸念を語ります。
種池さんは国鉄時代から42年、車両検修一筋の鉄道マンでした。「分割・民営化」に伴う不当配転とたたかい、定年退職しました。「公共交通の役割が薄らいで、もうからないと切り捨てるということにならないか」。鉄道への思い、誇りが強いだけに危ぐは消えません。
東京に若い人や産業基盤が流出してしまうのではないか、〝ストロー現象〟が起きるのではないか、との指摘も出ています。
運賃も乗り換えも増えた
新幹線建設にあたっては、「JR(新幹線)と並行在来線の経営分離」が、政府・与党「申し合わせ」(1990年)として大きな縛りとなってきました。
JR東日本・西日本の2社は、採算性が大いに見込める路線を残す一方で、地域にとって不可欠な並行在来線(信越線、北陸線の一部)は「事業廃止」にし切り離し、各県ごとの「三セク」に引き継がせ、沿線自治体に財政負担を負わせる〝虫のよさ〟です。
「レールは一つ」でも、路線・ダイヤは県境で分断されます。「しなの鉄道」(長野)、「えちごトキめき鉄道」(新潟)、「あいの風とやま鉄道」(富山)、JRいしかわ鉄道」(石川)の4社が経営・運行にあたります。並行在来線で移動の場合、これまで1枚の切符で足りた長野-金沢間は、3~4枚必要になります。
乗り換えるごとに初乗り運賃が発生し、割高になります。「三セク」2社とJRが走る新潟県上越市。高校が集中する高田に通う場合、2~3社をまたぐことになり、通学定期代が一挙に1・3倍にもはね上がります。
「しなの鉄道から、えちごトキめき鉄道へと、乗客がいちいち乗り換えなければいけない」と気がかりなのは、新潟県の「妙高高原駅」近くで商店を営む女性です。以前は信越線が運んでくる荷物運送業でした。新幹線駅まで5駅離れており、波及効果は未知数。
「浅田真央ちゃんじゃないけど、『ハーファンドハーフ』かな」。″新幹線景気″にも複雑な表情を見せます。
新幹線駅下に並行在来線駅がある「上越妙高駅」(新潟県)。開業前の週末、友人と連れ立ってカメラを構える高校2年生男子(17)は、困惑気味に語りました。「今までの信越線だと一つの列車でどこへも行けたが、三セクだと運賃が高くて…」。
社会的責任果たせと運動
「並行在来線を守れ。国とJRは社会的責任を果たせ」と、各地で運動かおこりました。
新潟県では、共産党上越地区委員会が96年にシンポジウムを開いたのをはじめ、「並行在来線を守る3市連絡会」が中心になって2011年に直江津駅(上越市)から妙高高原駅(妙高市)まで40キロメートル近くを行進してアピール、長野県でも沿線大行動・デモが行われました。
各地の共産党は、井上哲士参院議員、藤野保史衆院議員ら国会議員と連携し、国・JRの社会的責任を果たさせるために力を尽くしてきました。
地方議会でも共産党は問題点を明らかにし、並行在来線への国支援を求めるなど、共同を広げる立場で対応。石川、富山両県議会では、「並行在来線の持続可能な安定経営実現」を求める決議が上がるなど世論を動かしてきました(石川県は共産党が提案)。長野県議会でも、日本有数の豪雪地帯を走る在来線のワンマン運転と安全性をただしました。
金沢から延伸が予定される福井県を含む「北陸新幹線・並行在来線問題連絡会」(5県連絡会)などは、ねばり強く横断的な運動を展開し続けています。
「公共交通を考える富山の会」も、その一つです。シンポジウム9回、「提言」発表6回など幅広く活動し、シンポには県議会各派からも参加し、地元テレビ各社も報道するなど、影響は広がっています。
「会の活動は、『県民の声』として市民権を得てきた。特急が止まらない在来線沿線の影響調査・アンケートを行い、コミュニティーバスヘの影響も調べていく。『3・14』以降も″のんびり行こうや”と引き続き活動を重ねる。これからです」。世話人の渡辺眞一さんは語りました。
(しんぶん赤旗2015年3月14日付けより転載)