東京電力福島第1原発5、6号機の所在地である福島県双葉町は帰還困難区域が大半を占めます。町民のうち3000人近くが北海道から沖繩まで県外に避難し、4000人以上が福島県内に避難しています。
伊沢史朗町長は2月13日、政府が同町に建設を計画している除染で発生する汚染土を保管する中間貯蔵施設を「苦渋の判断」として受け入れることを表明しました。
伊藤吉夫さん(73)
郡山市に避難している双葉町県中地区借り上げ住宅自治会会長の伊藤吉夫さん(73)は「避難者はみんな町に帰れないと思っている。そしてみんな町に帰りたいと思っている」と複雑な心境を説明します。
4年たっても除染も始まらず、町の復興工程もない状態・・。
伊藤さんは中間貯蔵施設建設は避けて通れないものと考えていますが、地権者だけでなく町民全体の合意が不可欠だと考えています。地代が入る地権者とそれ以外の町民のあつれきをなくす対策を国が示すことが必要です。
もう一つ伊藤さんが重要だと考えるのは、福島第1原発の廃炉です。伊藤さんの自宅の底の空間線量は毎時約1マイクロシーベルト。「除染をして放射線量が下がれば帰還が不可能とも思えない微妙な数字」です。しかし、メルトダウンを起こした第1原発の廃炉に一体何年かかるのか。また放射能漏れが起きることはないのか・・。
伊藤さんは「先の見通し、将来の見通しの情報がほしい」といいます。
天野正篤(まさあつ)さん(76)
郡山市喜久田町の仮設住宅で自治会長も務めてきた天野正篤(まさあつ)さん(76)は、昨年5月にマンションを購入し、間もなく仮設住宅から引っ越す予定です。
すぐに引っ越さなかったのは、双葉町の自宅の仏壇がネズミのふんで汚れてしまい、新しい仏壇をつくり、それとともに一つの区切りとして移動したいという思いがあります。汚れた仏壇をきれいにして持っていくことも可能ですが、自宅にも仏壇を残しておきたいのです。
マンション購入直後に東電が財物補償の上乗せ補償を行いました。少し待っていれば、購入資金を増やせたという思いも残ります。
天野さんは郡山市に保育園をつくる活動に携わっています。教育の大切さということともう一つ、賠償がなくなった後のことも含め、避難者の自立を進めたいという願いからです。
天野さんはいいます。
「お金も大切ですが、人間は誇りを持って生き、働くことが大切です。避難住民が働きやすい環境をつくる一助になりたい。私の最後の仕事です」
(おわり)
(佐藤幸治、柴田善太が担当しました)
(「しんぶん赤旗」2015年3月3日より転載)