谷藤允彦(たにふじ・よしひこ)さん(72)は、福島県郡山市で地質や地下水を調査する会社の会長です。
「地質調査業は、測量・設計業界の一部門や付属部分と見られてきましたが、独立した業界として認知されるようになりました」と、大震災から4年の変化を語ります。
「大震災後の住民は、地盤の安全性について地震に耐えられるのだろうか、基礎はどうかなどと考えるようになりました。私たちの仕事が社会的に認識されるようになりました。緊張感とやりがいを感じています」
■地質学に興味を
谷藤さんが地質学に興味を持つようになったのは、生まれたところが秋田県と岩手県の県境にあった金属鉱山の近くだったことからでした。「鉱物に触れることができて、どんな地層や地盤から発掘されるのか関心を持った」
東北大学理学部で地質学を学び、卒業後は福島に移住。地質を調査する会社で働きました。「この道50年」になります。
谷藤さんの会社は、東京電力からの委託を受けた福島県内に本社を置く12社でつくる「葛尾村賠償井戸工事共同企業体」(JV)に代表幹事社として参加。深井戸設置工事に携わっています。
東端福島第1原発事故による全村避難が続く葛尾(かつらお)村。帰村したときに村民の飲料水をどう確保するかが課題になりました。同村は、村の大半が沢水や湧き水を飲料水に使っていました。「放射能で汚染されているのではないか」という懸念の声が上がりました。
村は東電に安全な飲料水の確保を要望。賠償として東電に深井戸の設置をさせることにしたのです。6月までに200本の井戸を完成させる計画です。
谷藤さんは「葛尾村の地下水は、99・9%は安全です」と、これまでの地質や水質調査の結果から断言します。
避難指示解除準備区域で原発事故前に沢水を利用していた436世帯のうち約半数が設置を申し込んでいます。
谷藤さんによると、工事が完了した世帯の井戸水からセシウムは検出されなかったといいます。
■「失敗から学ぶ」
掘削機で地下50メートルの深さまで掘り、必要な水量が確保できない場合は最大70メートルまで握り地表の水などが混入しない安全な飲料水の確保を図っています。
谷藤さんは「大地震や津波など自然災害の危機が差し迫っているという認識にいたっていなかった」と反省します。「危険性に向き合っていなかった。もう少し努力すれば具体的に危険性が分かり警鐘できた」と悔しがります。
「反省はするが後悔はしない。失敗から学ぶこと」をモットーにする谷藤さん。福島県須賀川市に「再生可能なエネルギーを地場産業として造りたい」と「共同発電所の建設」を進めています。
「経済的にも自立できる市民運動として取り組む。楽しく夢が広がります」
(菅野尚夫)
(「しんぶん赤旗」2015年3月2日より転載)