関西電力高浜原発3、4号機(福井県)について原発の新規制基準に「適合」したとする審査書案を12月17日、原子力規制委員会が公表したことに対し、「再稼働は許されない」などの怒りの声が上がっています。
新たな仮処分申請も・・福井原発訴訟(滋賀)原告団長 辻義則さん
総選挙が終わった夕イミングを狙ったかのような原発再稼働を進める動きに怒りを覚えます。
大津地裁は、高浜原発3、4号機などの再稼働禁止を求めた仮処分申請を却下(2014年11月27日)したものの、私たちが主張した基準地震動(想定される地震の最大の揺れ)の根本問題について、関西電力はまともに反論できませんでした。裁判所は「新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたく」と判断しており、この決定に照らしても、安全が確保されないまま、再稼働を急ぐことは許されません。
裁判所の想定していた事態ではなくなったことから、再稼働にストップをかけるため、新たな仮処分申請も起こす決意です。
デモや署名さらに・・福島をはじめ、世界の放射線被害を取材してきたフリーライター 守田敏也さん(55)
高浜原発の近くには、福井地裁から再稼働差し止め判決が出された大飯原発があり、「250キロ圏内に居住する」原告との関係で原発を運転してはならないとした判決を無視し、再稼働を進めようとすることは許されません。
審査書が正式決定した川内原発については、事故が起こった際に自分が訴追されないように安倍政権はじめ、原子力規制庁や鹿児島県知事も最終的な責任を取ろうとしていません。
原発再稼働に対する世論の反対の動きが圧倒的に強いことから、安倍政権はこの間も再稼働を強行できず、今回の総選挙の争点にもされませんでした。現在すべての原発を止めている私たちの行動の力に自信を持ち、デモや署名の運動をさらに広げていきましょう。
想定こす地震の危険・・福井大学名誉教授・山本富士夫さん
新規制基準は再稼働するための基準です。原子力規制委員会の田中俊一委員長自身が「安全を判断するものではない」と明言しています。想定する最大の揺れ(基準地震動)は、過去の限られたデータから算定している平均的な値にすぎないため、これを超える実例は相次いでいます。
関電大飯原発3、4号機の再稼働差し止めを命じた福井地裁判決は、大飯原発には想定の1・8倍を超える地震が到来する危険があると認めましたが、同様のことは大飯原発の近くに立地する高浜原発にもいえることではないでしょうか。
万が一にも重大事態があってはならない原発という巨大システムの制御は非常に困難です。
美しい若狭の自然を放射能で汚してはなりません。電力は足りています。実効性のない避難計画の現状も、先送りは許されません。
私たちは今、「もう動かすな原発!福井県民署名」に取り組んでいます。年明けまで継続して西川一誠知事に提出します。来年のいっせい地方選挙の大きな争点に押し上げ、地方自治に民意が反映するよう頑張りたいです。
「再稼働は認めない」・・原子力規制委前で抗議
原子力規制委員会が関西電力高浜原発3、4号機の再稼働の前提となる審査書案を公表したことに反対する行動が12月17日、東京都港区の原子力規制委員会前で行われました。参加者は冷たい強い風が吹くなか、「高浜原発再稼働反対」「審査書案は認めないぞ」と声を上げました。
主催は「原子力規制を監視する市民の会」です。抗議行動では、午前中に行われた原子力規制委員会の定例会合を傍聴してきた人などがマイクを握り訴えました。
同会の阪上武代表は、審査書案には汚染水事故対策が含まれていないことや、実効ある避難計画ができていないことが審査されていないと指摘。「福島事故の教訓すら生かされていないこの審査書案は到底、認められません」と語りました。
定例会合を傍聴してきた女性は「福島の事故はまだ終わっていません。事故の原因すらわからない状況です。高浜原発はもちろん、川内原発の再稼働も絶対に許しません」と訴えました。
解説・・国民世論を無視し安全を置き去りに
関西電力高浜原発(福井県高浜町)が原子力規制委員会の新規制基準に「適合」したとする審査書案が公表されるのは、九州電力川内(せんだい)原発に続く2例目です。
審査書案は、高浜原発で想定される地震の最大の揺れ(基準地震動)を700ガル(ガルは加速度の単位)、想定する津波の高さを6・7メートルとして、防潮堤などを建設し、敷地の浸水を防ぐとしています。今年5月に関電大飯(おおい)原発の差し止めを命じた福井地裁判決は、四つの原発で基準地震動を上回る揺れを引き起こした過去の事例があり、想定を超える地震が到来しないというのは「根拠のない楽観的見通しにすぎない」と指摘し、この設定自体に疑問を呈しています。
関電は、高浜原発で過酷事故が起きれば19分で炉心溶融(メルトダウン)し、1・5時間後に原子炉圧力容器が壊れ、放射性物質が漏れるとしています。しかし、住民を放射能から守る上で肝心の自治体の避難計画は審査の対象に入っておらず、自治体任せです。住民の安全は置き去りです。
規制委の田中俊一委員長は17日の会見で「防災避難計画は私どもが関わることではない」と発言しています。川内原発の意見公募では約1万8000件の意見が寄せられましたが、「科学的・技術的意見」ではないと、避難計画などに関する不安や疑問は問題にされませんでした。その後の地元の住民説明会でもまともに答えませんでした。今回も同じやり方を踏襲しようとしています。
「地元の同意」の手続きも問題です。高浜原発の30キロ圏には福井県だけでなく、京都府、滋賀県の3府県が入ります。京都府舞鶴市は、事故時に即時避難が必要な5キロ圏の地域があります。両府県は安全協定の締結を求めています。川内原発の場合、安倍政権は、県と立地自治体以外の周辺自治体を切り捨てています。住民無視のやり方は許されません。
日本では昨年9月以来、1年3ヵ月にわたって″原発稼働ゼロ″です。どの世論調査も再稼働反対が多数です。
新規制基準に「適合」と認められた原発の「再稼働を進めます」と、再稼働を強引に進める安倍政権に対する批判がいっそう強まることは必至です。
(三木利博)
(しんぶん「赤旗」2014年12月18日付けより転載)