国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が11月2日公表した第5次統合報告書は、温室効果ガスの排出継続と対策の遅れによる人類・生態系への被害を、これまで以上の危機感をもって警告しています。同時に、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2度未満に抑えるという国際目標に至る道は「複数ある」と明記しました。12月1日から12日までは、国連気候変動枠組み条約第20回締約国会議(COP20)がペルーのリマで開かれ、この場でも各国の対応が問われることになります。(パリ=島崎桂)
異常気象で経済損失
報告書は、人間の活動が温暖化をもたらした可能性について「極めて高い」(95%以上)としたうえで、「人為起源の温室効果ガス排出量は史上最高となっている」と強調。現在のペースで排出が続けば、21世紀末までに世界の平均気温は最大4・8度、海面は最大82センチ上昇し、「人類や生態系に後戻りできない影響を及ぼす可能性が高まる」としています。
気候変動の影響としては、生態系の破壊や低地・沿岸部・島しょ地域の水没、生物が媒介する疾病の増大、森林火災の増加などを予測。とりわけアジア地域では▽洪水被害の増大▽暑熱関連の死亡率の上昇▽干ばつによる水・食糧不足の増大-を指摘しています。
経済的損失についても「気温上昇とともに増大する」として、食糧生産の低下に伴う貧困や飢餓の増大、経済成長の鈍化、資源をめぐる紛争の増加などを指摘。IPCCのパチャウリ議長は「(気候変動に)対応しなかった場合のコストは、対応した場合のコストよりもはるかに高くなる」と訴えました。
CO2排出「ゼロ」へ
国際社会はこうした被害を防ぐため、気温上昇を2度未満に抑える目標を設定していますが、達成には迅速な行動が求められます。
この目標の達成には、二酸化炭素(CO2)の総排出量を2兆9000億トン未満にとどめる必要がありますが、2011年までの排出量は既に1兆9000億トンに達しています。現在の排出ペースが続けば、およそ30年後には許容量を超える見通しです。
報告書は目標達成のため、50年までに10年比で41~72%、2100年までに78~118%のCO2削減が必要だと指摘。これを実現するため、近い将来の大規模な削減と併せ、今世紀末までに排出を「ほぼゼロ」にする必要があるとしています。
具体策としては、主要な排出要因である発電分野において、化石燃料(石油・石炭など)から再生可能エネルギーを中心とした「低炭素エネルギー」への移行を要請。世界の発電設備に占める再生可能エネルギーの割合を、50年までに現行の約30%から80%以上に拡大するよう求めています。また、森林保全や植林など「炭素吸収源の強化」も挙げています。
国連の潘基文事務総長は報告書の公表を受け、世界の投資家に対し「石炭・石油に基づく経済への投資を減らし、再生可能エネルギーヘの投資を」と呼び掛けました。
今回の報告書は「CO2回収・貯蓄技術」(CCS)も有効な手段として重視しました。CCSは、回収したCO2を液化するなどして地中や海底に貯蔵する新技術。日本政府は2020年までの実用化を目指しています。
パチャウリ議長は「CCSで化石燃料の使用継続が可能となる」としていますが、一部の環境団体は貯蔵したCO2の漏出を危ぶんでいます。今後はCCSの技術革新や安全性の検証が課題となりそうです。
削減目標示さぬ日本
国際社会は今後、今回の報告書を基に温暖化対策の議論を進めていくことになります。当面は、12月のペルー・リマでのCOP20と、来年(2015年)フランスのパリで開かれるCOP21での議論が最大の焦点です。
各国は両会議を通じ、20年以降の温室効果ガス削減目標など、京都議定書(1997年に採択)に代わる国際的な枠組みづくりを目指しています。
COPでの議論を主導したい欧州連合(EU)は10月末、30年までに排出量を1990年比で40%削減する目標を設定しましたが、大量排出国の中国や米国はこれまでのところ、前向きな目標を提示していません。世界第5位の排出国である日本政府は、90年比で約3%の「増加目標」を維持したままです。
IPCCによると、EUが設定した「世界で最も野心的な削減目標」(ファンロンパイ前EU大統領)ですら、2度未満に抑える国際目標の達成には不十分です。各国の指導者には、緊急かつ大規模な削減目標の設定と、その実践が求められています。
(「しんぶん赤旗」2014年11月11日より転載)