福島県いわき市の中山間地でコメと、50を超える多種類の野菜を栽培する有機農業者の東山広幸(ひがしやま・ひろゆき)さん(53)は、「人の命を支えるための生産に人生をささげ」てきました。
■大学で生物物理
東京電力福島第1原発事故は、東山さんの信条を根底から壊す出来事でした。「広範囲な土地を汚染し、有機農業者の誇りとともに、生活の基盤を根底から崩してしまった」からです。
東北大学と同大学院で生物物理学を学んだ東山さん。原発事故後、その専門知識を生かして放射能汚染に対する対処策、農産物が放射性物質を取り込むメカニズムなどを消費者に説明してきました。必要以上の心配を少しずつ払拭(ふっしょく)してもらい「7割以上のお得意さんに継続して買ってもらえました」。
原発事故からの3年7ヵ月は「自分の力が試された日々だった」といいます。「普通の農家では放射能汚染には対処できない。生物学、化学、物理学、地質学など複数の特質を合わせ持つ科学のオールラウンダーでないとやっていけない」と痛感させられました。
風評被害は東山さんの暮らしに打撃をあたえました。「もともとぎりぎりの収入でやってきたために今は貯金を取り崩してなんとか生活している状態だ」といいます。
北海道出身の東山さんが、いわき市で農業を始めたのは、「しんぶん赤旗」の「若いこだま」欄に農業をする土地を探していることを投稿したことがきっかけでした。
早速、情報が寄せられて、移住が決まったのです。
「大学生のときから原発建設には反対だった」といいます。「事故が起きたらどうするの」「放射性物質をどこに廃棄するの」など根本的な疑問がたくさんあったからです。
大学の授業のなかで放射能防御についての講義と実習がありました。「防御の作業は大変でした。原発作業員の苦難は想像を絶するものだと思う」と、懸念しています。
50アールの田んぼと70アールの畑を耕す東山さん。放射性物質は検出されていません。お薦め作物は、第一にサトイモ、次いでタマネギ、グリーンピースの三つを挙げました。消費者からも人気で、「タマネギは生で食べられます。果物感覚です」と太鼓判を押します。
■安全と味のよさ
農協やスーパーなどにはいっさい出荷せず、自分で宅配しています。口コミで広がり、10種類以上の季節の野菜をコンテナに詰めて販売しています。「安全は前提です。有機農業は味が一番です。うまければ買ってもらえます」と秘訣(ひけつ)を語ります。
「おいしい野菜を育てるには肥料が重要です」と、魚粉と米ぬかを使っています。「魚粉はアミノ酸が豊富でおいしい野菜を育てます。米ぬかは健康的な野菜を作ります」
「今年の福島産米は60キロで仮渡し金で約7000円。怒り心頭です。原発事故は安全性への信頼をなくしてしまった。打撃は大きく悲惨です。東電を許しておけない」と、いわき市民訴
訟の原告に加わりました。
「原発と決別せよ!というのは当たり前のことです。子や孫に恨まれない仕事をしたい」
(菅野尚夫)
(しんぶん「赤旗」2014年11月5日付けより転載)