「(東京電力福島第1原発の)汚染水はコントロールされている」という安倍晋三首相の発言(2013年9月)から1年余。首相は今も「全体として状況はコントロールされている」(10月1日、国会答弁)と発言していますが、現状は「コントロール」とは程遠い状況です。国と東電の汚染水対策はいずれも不安定要因を抱える中、東電は高濃度放射能汚染水を「来年3月までに全量処理する計画を堅持する」としていますが、その実現には赤信号がともっています。
「仮復旧に少なくとも1カ月、本格復旧に2カ月」-。高濃度放射能汚染水から多くの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS・アルプス)に、またもや深刻なトラブルが起きました。ALPSの3系統の一つ、B系統が9月26日、炭酸塩をろ過するフィルターから炭酸塩が漏れ、運転停止したのです。
国と東電が汚染水処理の〝切り札″と位置づけるALPSは、昨年(2013年)3月の試運転開始以来トラブルが相次ぎ、安定した運転ができていません。
今年に入って、フィルターのパッキンが放射線によって劣化していたことが問題に。耐久性を高めたとする新型パッキンに替えたばかりでしたが、今度はそのパッキンが破損しました。東電は11月中旬からALPSの本格運転を始めるとしていますが、可能なのか。
東電は、約41万トンにのぼる高濃度放射能汚染水を来年3月までに全量処理すると計画していますが、ALPSの本格運転はその大前提。相次ぐトラブルは、そのスケジュールに大きな影を落としています。
■全量処理きわめて困難
タンクに貯蔵されている高濃度放射能汚染水は、約36万トン(7日時点)にのぼります。
2011年の事故で1~3号機の原子炉格納容器から放射性物質が漏れ、建屋地下には1日に約350トンの地下水が流入し、汚染水が増え続けています。
東電の資料によると、地下水流入などにより来年3月までに汚染水は約4万1000トン増えてしまいます。さらに、2、3号機のタービン建屋から海側に延びるトレンチ(トンネル)にたまったままで、その除去が急務となっている高濃度汚染水が1万1000トンあります。
これら合わせて約41万トンにのぼる汚染水を来年3月までに処理できるのか-。
東電は、ALPSを増設して計6系統にするほか、より高性能のALPSも投入し、すべてが本格運転に入ることで1日1960トンを処理すれば全量処理できるとしています。しかし、フィルターのトラブル再発で暗雲が立ち込めています。
そもそも、すべて順調に運転したとしても、来年3月までに処理できるのは約33万トンで41万トンに届きません。東電は、追加の設備も使うとしていますが、来年3月までの全量処理は、きわめて困難です。
■薄めて海に放出
約4万1000トンという増加量の想定の前提にも問題があります。これは建屋周辺の井戸(サブドレン)で地下水をくみ上げ、浄化処理して海に放出して流入量を1日当たり200トン減らすという効果を織り込んだもの。
しかし、一部の井戸から1リットル当たり9万6000ベクレルものトリチウム(3重水素)が検出され、この井戸はくみ上げ対象から除外されました。しかし、東電は独自の排出基準(1リットル当たり1500ベクレル)を超えても他の井戸の水と混ぜて薄めて海に放出する方針。地元漁業者の理解も得られていません。
すでに稼働し、1日当たり50~80トンの地下水流入の抑制効果が出ているという、さらに山側の地下水バイパスも、一つの井戸から同1500ベクレルを超えるトリチウムが検出され、他の井戸の水と混ぜて薄めて海に放出しています。
2、3号機の海側トレンチの汚染水の除去も難航しています。東電は凍結のみによる止水を断念。充塡(じゅうてん)材ですき間を埋める追加対策を行います。
■増えるタンク
問題はこれだけでは終わりません。ALPSで処理した汚染水はきれいな水ではなく、放射性物質が残ります。特にトリチウムはまったく除去できません。
原発内にはALPSで処理した水約15万トンが貯蔵され、そのタンクは今後も増え続けます。このALPS処理水をどうするかは未解決の課題です。汚染水問題をめぐる国と東電のこれまでの対応からは、最後は薄めて海に放出してしまおうとの安易な考えも透けて見えます。
福島第1原発の汚染水の現状は、ひとたび重大事故が起きれば収束が非常に困難であるという原発特有の危険性を示しています。
国に求められているのは原発再稼働などではなく、東電任せの姿勢をあらため、国が前面に出て英知を結集し、事故の収束に責任を持つことです。(細川豊史)
(「しんぶん赤旗」2014年10月13日より転載)