福島県猪苗代町で林業を営む筑井(ちくい)誠さん(61)、百合子さん(57)夫妻は「原発事故の完全収束に責任を果たせ」と、国と東京電力に求めています。
生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟に、結婚したばかりの次男の大介さん(28)、里奈さん(29)と家族4人で原告に加わりました。山が放射能で汚染されたことは「死活にかかわる」事態になったからです。
■売れなくなり
「原発事故後に樹皮を検査すると8000ベクレルにも達した木材もあった」といいます。郡山市湖南町の自分の山林から取った樹皮は648ベクレルでした。
筑井さんが伐採する山は、いずれも福島県内の山々です。県外の材木を切り出すことになると「コストが高くなり、輸入木材に太刀打ちができません。採算が合わなくなる」からです。
3年半前の「3・11のとき筑井さん親子は、福島県田村市都路で作業中でした。激しい揺れで、ユンボなど大型機械を現場に放置したまま避難しました。その後、仕事現場は、立ち入り禁止となり仕事は中断しました。
2012年になると「福島県産のものは要らない」と、売れなくなりました。
「家を建てるのは一生に一度。放射能に汚染された材料は使われなくなりました」
筑井さんが林業をすることになったのは25歳のときでした。「この地域では冬場は出稼ぎに行っていた。高浜原発などで2年間働いたこともあった。出稼ぎに行かずに地元で1年間働けるようにと林業をすることにした」といいます。
35年間働いてきて「売り上げも上がってきたときに原発事故。廃業した仲間もいます」。趣味で猪苗代湖のフナ、コイ、ハヤなどを釣って楽しんできました。しかし、事故後は淡水魚を食べることも禁止されています。
■測定して伐採
山には親子で入る筑井さん。大介さんが林業を継いでくれました。「伐採するときに粉じんが飛びます。防じんマスクをすると夏場は暑くて仕事にならない。放射能に汚染した木くずを吸い込むのではないかと心配。息子には伐採作業はさせない」と、健康被害を心配しています。
誠さんはいいます。「息子が後継者としてやると言っているので、一日でも早く原発事故は完全に収束させてほしい」
「東電に怒りだらけです」と話す百合子さん。「目に見えないものにおびえながら生活しています。息子は結婚したばかりです。子どもをもうけて孫ができたならば、孫が健康で丈夫に育ってほしいと願っています。仕事場領域のフィールドの山が放射能で汚染されたままでは安心できません」
雪の深い会津地方では冬場は伐採の仕事は困難。福島県中通りで放射線量を測定したうえで伐採しています。「場所を選ばないでできるように早くなってほしい」
(菅野尚夫)
(「しんぶん赤旗」201年9月22日より転載)