東京電力が原発事故で、多大な被害を受けた被災者にたいし9月12日までに支払った賠償金の総額は、4兆2573億円です。
被災者が粘り強く東電と交渉してたたかって勝ち取った成果です。被害の実態からすると決して十分ではありませんが、被災者が何度も東電に出向いて交渉し、原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)に訴えるなどして支払わせてきました。
不誠実な理由
福島県浪江町の約1万5000人が慰謝料の増額を求めてADRに申し立てた問題では、ADRが月15万円に増額する和解案を示しましたが、東電は応じようとしていません。理由は、「大型の集団申し立て事案における和解案受諾は、当該訴訟手続きに影響を与えるおそれ」があるなどという、極めて不誠実なものです。
川俣町から避難を強いられ、一時帰宅中に自殺した渡辺はま子さんの夫らが賠償を求めた裁判の判決は、原発事故との因果関係を認めて4900万円の慰謝料を支払うことを命じました。東電は「個人的要因を踏まえて因果関係を判断すべき」だという冷たい態度をとってきましたが、厳しく断罪されたのです。
相馬新地、原発事故の全面賠償をさせる会の村松孝一事務局長は、東電の姿勢を「どっちが加害者なのかわからない横暴な対応」と厳しく批判。
「20キロ以上30キロ圏内などで自主避難した被災者に賠償せず、自主的に除染した費用を支払わないで、請求した書類を説明も無く送り返してきたりしている」
いわき市民訴訟原告の佐藤三男さんは「福島県民は大変な思いで暮らしています。東電は加害者としての意識が感じられず、勘弁できない。被害者の主張にそって賠償すべきです」と怒りを込めます。
国に加害責任
「とんでもないことが起きている」と危機感を募らせるのは、完全賠償させる県北の会事務局長の菅野偉男(かんのひ)でお)さん。これまで東電との直接交渉によって賠償請求をしてきた同会にたいし、東電は対応窓口に代理人の弁護士が当たると一方的に通告してきたのです。
「東電が直接に被害者の声を聞くことをやめて、賠償を打ち切るのがねらいだ」と警戒します。「県民の要望、願いに寄り添わない東電に強く抗議し、県民の要求実現を求めていきます」
こうした東電の″強気″の背景には、「原発ゼロ」を願う圧倒的世論を無視して原発再稼働をすすめる国の姿勢があります。本来、原発を推進した国には、大きな加害責任があります。
国と東電に原状回復と損害賠償を求め、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」など集団訴訟に加わる被災者が急増しています。
菅野さんは、こう語ります。「国策として原発をすすめた国に賠償責任があるのは当然です。同時に私たちが国を被告としているのは、原発ゼロの社会に変えるためにも不可欠だからです」
(おわり)
(この連載は、釘丸晶、佐藤幸治、菅野尚夫、本田祐典、森近茂樹が担当しました)
原発事故で農業被害・・いわき訴訟2人が意見陳述
元の生活を返せ・原発被害いわき訴訟(原告数1393人、伊東達也団長)の第7回口頭弁論が9月17日、福島地裁いわき支部(杉浦正樹裁判長)で行われました。2人が意見陳述し、農業被害について訴えました。
阿部節子さんの長男は、原発事故の1年前に脱サラして5人の仲間と農業を始めました。原発事故後、取引のあった会社は、福島県産の野菜は取り扱わないことになり、長男以外の仲間は、事故後にいわき市を去りました。
阿部さんは「私はいわきの地を愛しています。『こども・いのち・暮らし』を守るような積極的な政策を展開してほしい」と訴えました。
「原発事故は広範囲な土地を汚染し、有機農業者の誇りとともに、生活の基盤を根底から崩してしまった」と陳述したのは、東山広幸さん。「貯金を取り崩しながら何とか生活している状態です」と窮状を訴え、「元通りの生活が戻ってくるまで適切な賠償を継続してほしい。福島第2原発はもちろん、柏崎刈羽原発の完全廃炉を要求したい」と陳述しました。
(「しんぶん赤旗」2014年9月18日より転載)