未曽有の被害をもたらした東日本大震災から3年半を迎えました。いまだに約24万6000人が仮設住宅などでの避難生活を強いられ、東京電力福島第1原発事故も復旧の見通しが立ちません。厳しさがます被災地の現状と課題は-。(東日本大震災取材班)
岩手、宮城、福島3県で約9万人が暮らす約4万2000戸の仮設住宅は、生活環境がさらに劣悪になっています。
■100倍のカビが
「拭いても拭いてもすぐに生えてくる…」。宮城県石巻市の仮設南境第7団地で暮らす安藤みよ子さん(74)は、台所の天井に発生したカビを指差してため息をつきます。カビは部屋のベッドを置いた下の畳にもビッシリ。「嫌なセキが出るし、背中がかゆくなって夜も眠れないほど。行政にカビ対策をしてもらいたいです」
仮設住宅の結露と一体となったカビの発生は、入居当初から住民を悩ませてきました。とくに最近、大量発生が各所で問題に。石巻市では7月、医師や専門家が集団検診を実施しました。
検診・調査を行った国立医薬品食品衛生研究所・衛生微生物部の渡辺麻衣子室長は、こう指摘します。
「検診で呼吸器系の異常やアレルギー症状がみつかった人の割合は、一般と比べても低いとはいえない水準です。湿気やほこりがたまりやすい構造の仮設住宅は、一般の住宅より約100倍のカビが空気中に漂っている例もありました。こんな環境が長時間続くと体によくありません」
仮設住宅の入居期間は建築基準法の規定で原則2年ですが、特例として5年まで延長されました。
■公営住宅遅れ
岩手、宮城、福島3県で災害公営住宅の建設などが大きく遅れているためです。3県で計2万9111戸の災害公営住宅が建設予定ですが、半数以上の1万5409戸が着工にも至ってないのが現状です。(詳報15面)
自宅再建も土地造成の遅れや建設費の高騰ですすんでいません。
そうしたなか仮設住宅の〝老朽化″も深刻です。
同市の仮設大森第3団地では、一部家屋が外観でわかるほど傾斜し、寝ていると気持ち悪くなったと訴える住民が続出。同団地の阿部好広自治会長(67)は「窓枠がゆがんで窓がきちんと閉まらないという家も多い。災害公営住宅は建設が遅れているし、住民は心身ともに限界です。アベノミクス(安倍政権の経済政策)だ、東京五輪だなどという前に被災地の住宅建設を優先してほしい」と語気を強めます。
日本共産党の三浦一敏県議は、こう力を込めます。「アベノミクス戦略による『国土強靭化』や東京五輪のための大型公共工事の影響は大きい。災害公営住宅や自宅を建設するための資材や人件費が高騰し、人手不足もおきているのです。しかも宮城県では、村井嘉浩知事が被災者の住宅より巨大防潮堤建設に熱心です。被災3県の共産党は9月4日に政府交渉を行い、復興支援は政府が責任を持つよう要望しました。引き続き被災者の願いに心を寄せてがんばります」
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多くの被災者が切望する災害公営住宅の建設が遅れています。
「脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症で歩くのも不自由になってきています。体が動くうちに早く引っ越したい」-。宮城県石巻市の仮設南境第4団地で1人暮らしの小野寺久子さん(74)は、痛む腰をさすりながら語ります。津波で流された自宅近くの災害公営住宅の抽選を4月に受けましたが、はずれました。「10月にまた抽選があるけれど、当選したとしても建設中で完成はずっと先らしいんです」
石巻市は、市町村で最多の災害公営住宅4万戸を建設します。計画では2014年度に1500戸が完成する予定でしたが、「遅れが出ており、年度内の完成は予定の8割程度になる」(市担当課長)といいます。
■未着工が大半
被災3県が公表した災害公営住宅建設の進捗状況の資料(岩手、福島は8月末、宮城は7月末現在)によると建設予定は3県で計2万9111戸ですが、完成したのは2812戸と1割以下です。
建設中なのは1万890戸で、完成と合わせて1万3702戸。半数以上の1万5409戸は着工に至っていません。
予定されている入居開始時期をみると2年以上先となる16年以降が最多の宮城で6405戸など、各県とも多数あります。なかには18年度(岩手県山田町内の2カ所191戸)と4年以上も待たなければない所も。
なぜ建設が遅れるのか。各県の担当者に聞きました。
▽岩手県(建築住宅課) 用地取得に予想以上に時間がかかった。当初は取得に半年ほどを見込んでいたが、岩手はリアス式海岸で広い土地が少ないこともあり、2年ほどかかってしまった。建設は、これからの所が多いが東京五輪の影響や建設職人の後継者減少などで人手不足になるのが心配。
▽宮城県(復興住宅整備室) 用地取得の交渉に時間がかかった。土地造成も人手不足で時間がかかっている。発注の入札不調の原因は、各種復興関連工事が多いため建設業者に入札要件に必要な資格をもった技術者が足りないなど、人手不足があると思う。
▽福島県(建築住宅課) 用地取得の交渉が難航したケースが少なくない。取得しても水田など、そのまま使えない土地が多く、大規模な造成工事が必要。これから建設が本格的になるので人手不足や建設資材の高騰は今後の課題。
■人手は五輪へ
災害公営住宅整備は、土地取得の困難や人手不足、さらに建設資材の高騰など、自治体の対策だけでは解決が難しい問題が山積しています。
なかでも建設のための職人不足は、これからいっそう深刻になることが予想されます。災害公営住宅の建設を請け負っている石巻市の有力建設会社の専務は、こう指摘します。
「住宅建設には多くの工程があり、技術者・職人が必要です。とくに足りないのがコンクリートを流し込む枠を造る型枠工だが、もともと少ないうえに五輪関連などで都会にとられている。このうえ巨大防潮堤の工事が本格化したら、また人手がとられる。やはり国が責任をもって被災地優先にしてもらいたい」(つづく)
(「しんぶん赤旗」2014年9月11日より転載)