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福島・原発避難自殺訴訟判決の意義・・原告弁護団共同代表 広田次男さん

東電事故責任を明確に断罪・・原発差し止め訴訟にも影響

福島・原発避難自殺訴訟判決の意義・・原告弁護団共同代表 広田次男さん
福島・原発避難自殺訴訟判決の意義・・原告弁護団共同代表 広田次男さん

 原発再稼働に突き進む安倍内閣に痛打を与える司法の判断が再び下りました。原発事故による避難と自殺の因果関係を認めた福島地裁判決(8月26日)です。被告の東京電力も9月5日に控訴を断念しました。原告弁護団の共同代表・広田次男さんに、判決の意義と今後のたたかいについて聞きました。

(聞き手 阿部活士)

 

 ──判決は仮設住宅などの被災者を励ます明るいニュースでした。

 私たちは、川俣町山木屋で生まれ、子らを育てあげた渡辺はま子さん(当時58歳)が「被告(東京電力)の福島原発で発生した放射性物質放出事故により避難を余儀なくされたことなどが原因で自死した」と主張しました。

 

■丁寧に検証

 判決は、労災認定に活用するストレス評価表を用いながら、丁寧に検証しています。山木屋地区が計画的避難地域に設定されたため、生まれ育った地域を離れたストレス。仕事(養鶏場)もなくなったストレス。子どもらと別居し住環境の違うアパート住まいのストレス。いずれも人生のなかでまれにしか経験しない強度のストレスだったと指摘しています。

 その出来事に「予期なく、かつ短期間に次々と遭遇することが余儀なくされた」「自死と本件事故との間には、相当因果関係がある」と、明確に東電の責任を断罪しました。東電が放射性物質放出事故を犯した行為は重いと判定したわけです。

 ──脱原発の運動にも影響を与えるとも。

14-09-08jisatusyosyou とくに、判決が次のように踏み込んだことを評価しています。

 「被告(東電)は、原発が仮に事故を起こせば、核燃料物質等が広範囲に飛散し、当該地域の居住者が避難を余儀なくされる可能性があることを予見することが可能であった」

 「避難者が様々なストレスを受け、そのなかにはうつ病をはじめとする精神障害を発病する者、さらには自死に至る者が出現するであろうことについても、予見することが可能であった」

 この予見可能な対策をとらないかぎり、原発の再稼働はできないし、設置もできないとクギをさしたのです。一つの損害賠償裁判の判決にとどまらず、原発差し止め訴訟まで大きな影響を与えます。

 

■被害者目線

 基礎的な判決の姿勢として大事なのは、被害者の立場に寄り添っていることです。被害者の目線からの判決。たとえば、最後の部分には次のようにあります。

 「58年余の間生まれ育った地で自ら死を選択することとした精神的苦痛は、容易に想像しがたく、極めて大きなものであったことが推認できる」と。

 ──血の通った判決に東電も判決に服することになりました。

 彼(夫で原告の幹夫さん)は、自殺から半年後に私のところに訪ねてきました。″おれはいったいどうしたらいいんだ″と、心の整理がつかなくて、迷いに迷っていました。

 何回も話を重ねました。私は、彼の気持ちをくんだ長い手紙を東電に書きました。しかし、答えは1枚限り。「要求にはいっさい応じられません」というもの。東電はソロバン勘定だけの冷たい対応でした。

  ″では、明るい女房がなんて自殺したのか″。彼は悔しい思いで裁判に踏み切りました。

 人の死は、もっとも尊厳をもって扱われなければならないことでしょう。たとえば社長がお線香をあげる、墓前に行く。いわば、彼の閉ざされた心を人間の心として開くような行動が東電にあったら、こんなことにはならなかったでしょう。

 石原伸晃環境相(当時)が「金目でしょ」と発言したように、国も東電もわかっていないです。被害者の気持ちが。問うているのは、「金目」の話ではないのです。

 彼は、「どんな判決文になっても、はま子はもどってこない」と私にいいました。どの災害とも違う原発事故の本質をつく言葉です。原発でひとたび事故を起こせば、古里も地域社会も″もどってこない″。幹夫さんに限らず、被災者だれもが日々思う喪失態です。

 

■完全救済を

 東電は、その加害者なんです。今回、この判決に従ったことは一定評価しますが、被災者は渡辺さんひとりではありません。私たち弁護団は、「控訴断念」について声明を発表し、東電にたいし「判決を真摯にうけとめ、原発事故がもたらした被害の実相を正しく理解し、すべての被害者の完全な救済を果たすこと」を求めました。今後の東電の動きを注視したいですね。

 ──判決を力に、原発ノーのたたかいを広げたいですね。

 B型肝炎、薬害など被害者が弁護団とともに裁判に立ち上がり、判決を積み重ねるなかで解決方式を生み出してきました。原発被害も、この方式をとるべきです。

 原発事故は歴史上最大級で最悪の被害をもたらした公害です。国家権力が起こした公害犯罪にたいし、私たち在野法曹の視点から起こした訴訟を通じて、賠償でも原状回復でも、その基準が確立されるべきです。

 自殺や関連死であれば、裁判所が一定の基準値金額を決めて、被害者が訴え出ればそれが自動的に出る形をつくる。これが方向性です。今回の判決は、一つの基準ができたともいえます。

 原発ノーのたたかいでは、意識的に廃炉の訴訟だけはやらないんです。被害地・福島の責任として、世論で廃炉をかちとる超党派の運動をつくらなければ、恥ずかしいと思っているからです。共産党が提唱している「一点共闘」ですよ。元福島県知事の佐藤栄佐久氏、作家の玄侑宗久氏らがよびかけ人になって「県内の全原発の廃炉を求める会」が結成されました。その活動を無党派市民の方々まで広げたいですね。

 ──多忙ななか精力的な活動を支える源は。

 安全神話とダーティーマネーで築いた巨大な利権構造とブラック企業の体質─。東電・原発問題は、いまの社会のすべての矛盾が集約されています。そこにどう立ち向かうのか。社会正義を実現する弁護士として当然の仕事です。

 私の個人的な思いもあります。全学連を再建させた世代です。原発事故以来、大学で学生運動をした活動家仲間が、いわき市内にある事務所で毎年激励会を開いてくれています。ありかたいものです。その友情を誇りに、青春に恥じない、負けられない一戦なのです。

(「しんぶん赤旗」2014年9月8日より転載)

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