建設予定地を視察したFOEJapan吉田明子さん
安倍晋三首相はトップセールスでトルコヘ原子力発電所を輸出しようとしています。8月2日から8日に建設予定地のシノップを視察してきた国際環境NGO(非政府組織)の「FOEJapan」の吉田明子さんに話を聞きました。(佐久間亮)
日本が輸出しようとしている原発の建設予定地は、黒海沿岸のシノップ県シノップ中央市にあます。シノップ中央市は、自然も街並みも美しく、リゾート地として人気があります。2万人の人口が夏には3倍になります。その市街地から10キロの距離に立地予定地があります。
町長2人も
視察に行くと、原子炉立地予定地付近の松林が一部伐採されていました。原発建設のためとはいっていないそうですが、すでに動きは始まっているようです。地元の反原発グループは、周囲の湿地帯の生態系破壊も懸念しています。
街で出会った人たちからも、原発反対の声を聞きました。みやげもの屋の女性も、若い医師も、「市民はみんな反対だ」と語っていました。一方で、予定地の住民のなかには、仕方なく土地を売った人もいるということでした。
今回、シノップ中央市の両隣のゲルゼとエルフェレクの両町長に会うことができました。2人とも1時間ほど懇談し、明確に原発反対を表明していました。予定地から両町までの距離は約20キロです。
印象的だったのは、2人とも、反対理由に黒海対岸のウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故(1986年)を挙げたことです。トルコでは、事故の影響が全く調査されていません。それでも黒海沿岸の住民にがんや甲状腺の病気が多いことは、同国内では有名な話だと語っていました。
ゲルゼ町のオスマン・ベロヴァジクリ町長も家族をがんで亡くし、妻もがんを患っています。事故が直接の原因だとはいえなくても、なんらかの関係を確信していました。「子どもたちにきれいな世界を残したい。それは子どもや孫に対するわたしたちの役割分担だ」と語っていました。
ゲルゼ町役場の前は市場です。再生可能エネルギーに転換するためにも、市場の屋根に2年後をめどに太陽光発電を設置することを計画しているそうです。
エルフェレク町のムツァファー・シムセク町長も「原発は人類と相いれない」と語り、省エネルギーと再生可能エネルギーヘの移行を力説しました。
シンポ100人
私は、滞在中に地元のラジオやテレビに出演しました。8月6日前後だったこともあり、日本は広島で原爆を経験しているのになぜ原発を推進してきたのかと聞かれました。
3日夜には、ゲルゼ町主催の反原発シンポジウムが開かれ、100人以上が参加しました。わたしも避難計画の問題点や日本のエネルギー政策について報告しました。会場からは、原発がなくても日本は大丈夫なのかという質問がだされました。
トルコは日本以上に日照時間が長く、再生可能エネルギーの可能性は十分あります。原発の必要性がないこと、地元の人たちが強く反対していることを改めて認識しました。日本では、福島事故収束の見通しが立たず、放射性廃棄物をどうするのかも決められない。それらを全く無視して、トップセールスといって原発輸出を進めるのは、とても現実をみているとは思えません。
今後は、日本の「脱原発をめざす首長会議」のような組織がトルコでもつくれないかと、現地のグループと話しています。会談したゲルゼ、エルフェレクの両町長も「ぜひ協力したい」といってくれました。そういう形で、反原発のネットワークを広げていければと考えています。
(「しんぶん赤旗」2014年9月3日より転載)