政府が5月27日に示した原子力規制委員会の国会同意人事案に対し、「なりふり構わない再稼働への布石」「中立性を損なう」など批判が高まっています。規制委の発足時に内閣官房が作成したガイドラインの「欠格要件」に当たるためです。
「再稼働へ布石」批判の声・・「欠格要件に抵触することは明白
人事案は、9月に2年間の任期切れとなる元地震予知連絡会会長の島崎邦彦委員長代理と、元国連大使の大島賢三委員の2人を再任せず、後任に元日本原子力学会会長の田中知(さとる)・東京大学教授と、元日本地質学会会長の石渡明・東北大学教授を充てます。
規制委は東電福島第1原発事故を引き起こした重大な責任を負う経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会に代わって原子力規制を担う組織として、2012年9月19日に環境省の外局として発足。発足前の7月に内閣官房の準備室が作成した「委員長及び委員の要件の考え方」は、就任前3年間に、「原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者」「同一の事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者」などを「欠格」としていました。
元業界役員・原発マネーも
しかし、田中氏は、原発メーカーや電力会社などでつくる原発推進の業界団体「日本原子力産業協会」の理事を2011〜12年務め、11年度には東電の関連団体「東電記念財団」から50万円以上の報酬、原発メーカー・日立GEニュークリア・エナジーなどから研究費の奨学寄付として110万円を受け取っていました。
田中氏の人事案について、日本共産党、自民党など9党66人の衆参国会議員が参加する「原発ゼロの会」は30日、「欠格要件に抵触することは明白」として、撤回を求めています。
また、田中氏は11年11月に行われた経産省総合資源エネルギー調査会の会合で、「2030年以降も一定規模で原子力を維持することが適切」と原発の必要性を説明。同席した委員から「大事故を起こしてしまったことを許した反省はないのか」と批判されています。核燃料サイクルなどが専門の田中氏は、破たんの明らかな高速増殖炉も「一つのオプション(選択肢)として考えることは大事」と述べています。
この間、安倍政権や自民党、電力会社など原発推進勢力は、原発再稼働の前提となる適合性審査の迅速化などを求めて露骨に圧力をかけてきました。
昨年末には自民党の塩崎恭久衆院議員が規制委の田中俊一委員長に直接会い、再稼働を急ぐ電力会社の意見を聞くよう迫りました。
自民党のチームがまとめた提言には、島崎氏が専門家会合の初回で、日本原電敦賀原発2号機直下の断層を「活断層の可能性が高い」と発言したことを問題視。今後の委員の人選に注文をつけていました。
審査を担う委員の中立性は最低限の条件です。それが疑われる人事案は撤回すべきです。
業界から総額400万円06〜10年度
本紙が東京大学への情報公開請求で入手した資料によると、田中知教授は、2006〜10年度にかけて、原発業界から総額400万円の奨学寄付を受け取っていることがわかっています。
日本の三大原発メーカー、日立製作所原子力事業部(現、日立GEニュークリア・エナジー)からは、年60万円ずつ計300万円(06〜10年度)の寄付を受け取っています。
また、大間原発の建設をすすめる電源開発から06年度に100万円の寄付を受けています。
日立とGE社が関わった原発は、原子力規制委員会に適合性審査を申請したものでは、島根原発2号機(中国電、島根県)、柏崎刈羽原発6、7号機(東電、新潟県)、浜岡原発4号機(中部電、静岡県)、東海第2原発(日本原電、茨城県)となっています。
奨学寄付は、寄付先の研究者を指定して大学経由で行われる寄付。受け取った金の使途についての制限や報告義務はありません。今後の審査を進める上で、田中氏の中立性が問われかねません。
(「しんぶん赤旗」2014年6月1日より転載)