2011年東日本大地震の後、火山性地震の活発化や地殻変動、噴気異常などが日本の各地で起こりました。富士山直下でも地震が起こっています。噴火の前兆なのでしょうか。 (中村秀生)
富士山に詳しい日本大学教授・高橋正樹さん(火山地質学)
「これらの現象は、現時点では噴火現象には結びついていない」と言うのは、富士山に詳しい日本大学の高橋正樹教授(火山地質学)です。「ただ、悪いヤツほどよく眠るといわれますが、静かな火山ほど噴火すれば大きい。富士山は、前回の噴火からすでに300年たっているため、噴火の切迫性は常にあると考えた方がいいでしょう」
“やっかいな火山”
富士山の噴火の特徴について「山頂に限らず、直径30キロメートル圏内のどこで噴火してもおかしくない。また、あらゆる噴火様式で噴火する火山のデパートのような富士山は、噴火の場所や様式の特定がきわめて難しい″やっかいな火山″と言えます」と高橋さん。最近2000年の活動からみて、側火山からの溶岩流出が、最もありそうな噴火シナリオだとみています。
平安時代の貞観(じょうがん)噴火(864年)では、大量の溶岩が噴出し青木ケ原溶岩が形成され、広大な湖の大半を埋没させました。一方、江戸時代の宝永噴火(1707年)では、山腹に巨大な火口が形成され、大量の火山灰が江戸にも積もりました。富士山では例外的な爆発的噴火ですが、次回も起こる可能性は否定できないと言います。
「過去をみると、小規模な噴火が頻繁に起こるというのがほとんど。しかしここ300年間マグマが出ていないので、次は小さい噴火ではすまないと考えた方がいいですね」
南海トラフと関連
高橋さんが注目するのは、東海~四国沖の南海トラフ(駿河トラフ含む)で繰り返す巨大地震と、富士山噴火との密接な関連です。
「富士山は、三つのプレート(岩板)が衝突する三重点という、世界的に例のない特異な場所にある火山です」と高橋さん(図参照)。そして独特の地下構造が、富士山の活動を特徴づけていると説明します。プレート運動によって富士山直下で裂け目が開き、そこに深部からマグマが供給されるシステムができており、南海トラフの巨大地震が噴火の引き金となる可能性がある−というのです。
実際、宝永噴火が発生したのは南海トラフを震源域とする東海・東南海・南海の3連動型巨大地震の49日後でした。「直前に頻繁な群発地震が起こったという記録が残っているので、群発地震があれば警戒が必要です。顕著な山体膨張が観測されるかもしれません。ただ、マグマが上がったとしても″噴火未遂″に終わる場合も多い」
防災の準備は必要
今年初め、箱根火山で群発地震が観測され噴火の兆候ではないかと臆測を呼びました。「箱根火山は噴火未遂になる場合が多い。また、富士山とは独立したマグマ供給システムなので、心配する必要はない」と高橋さん。
「めったに起こらないとはいえ、防災の準備は必要です。溶岩の流出だけなら被害は局所的ですが、爆発型噴火なら東京に火山灰が積もるなど広域災害になります。火山灰の初期除去や食料備蓄など、既存インフラや流通システムに依存せず町内会単位で助け合う仕組みを作っておくことが大切です」