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これでは“被ばく計画” 原発事故の避難計画 実効性は・・環境経済研究所代表・上岡直見さんに聞く

14-05-12hyou 東京電力福島第1原発事故を受け、原子力災害対策を事前に重点的に整備する地域は、従来の原発から8〜10キロから、30キロ圏に大幅に広げられました。しかし、避難計画ができていなかったり、避難計画はあってもその実効性が疑問視されています。全国の原発の30キロ圏からの避難時間を試算した民間の「環境経済研究所」の上岡直見代表に原発事故による住民避難について間きました。
(松沼環)

 ──試算によると、避難にかかる時間の最長は浜岡原発で、高速道路を使用しない場合で約142・5時間という結果が出ました。(←表)   電力会社の解析によれば、最も厳しい事故想定は約20分で燃料溶融(メルトダウン)が始まり、1時間半くらいで原子炉圧力容器に穴が開き、放射性物質の放出が始まる可能性が高い。重大事故では、数時間単位の迅速な避難が求められるのです。

 しかし試算の結果からは、放射性物質の放出前に住民の避難は終わりません。住民の被ばくが避けられないことを示しています。

 いくつかの道府県が、既に同様の試算結果を発表しています。こういった試算は、条件設定で2倍、3倍違ってきますが、数時間で全員の避難が完了するようなところはありません。現状のままでは、避難計画は“被ばく計画”となってしまいます。

バス手配できるか

 ──どのような仮定で試算しましたか。

 冬季などの避難を考えれば、受け入れてもらえる最終避難所までを考える必要があります。指定された避難所が100キロ以上離れている地域もありますが、30キロ圏プラス10キロに最終避難所があると仮定しました。30キロ圏に存在している乗用車の50%が一斉に避難した場合に、最後の人が避難所に到着するまでの移動時間です。

 実は、段階的に避難する方が、5キロ圏の住民が逃げる時間は一般に短くなりますが、段階的避難が実現できるか問題です。福島では避難指示が徐々に広げられ、結果として段階的避難になりました。しかし、実際は、指示された地域の外にいる住民が、避難を開始しています。

 国民は、すでに福島の事故を経験してしまいましたから、次に事故が起きれば、避難ができる人は指示を待たずに動き出すと考えた方がいいでしょう。

 避難時間には、指示を受けてから実際に避難を始めるまでの避難準備時間、移動時間、避難完了確認時間を含めて考える必要があります。移動時間以外は一律に決められないため、試算には含まれていません。

 例えば多くの自治体の計画では、車を持たない人々は自治体が手配したバスなどで避難することになっています。しかし、集合場所までお年寄りなどは歩いて行き、バスが到着するのを待つことになります。さらに、本当にバスを手配できるのか、運転手はいるのかなどの問題もあります。  また、複合災害の場合は、津波警報が出れば沿岸の道は使えないかもしれないし、地震で橋なども使えなくなる可能性があります。

 福島県は原発立地地域の中では道路が整備されているところです。しかし、津波のために沿岸の道路が使えなかったこともあり、深刻な渋滞が発生し、多くの人々が、高い放射線量の中を避難せざるを得なかったのです。福島県の浪江町では、震災の翌日2011年3月12日に避難指示が出て、避難が完了したのは16日でした。

14-05-12
避難所でスクリーニング検査を受ける防災訓練の参加者(中央)=2013年10月12日、鹿児島県姶良市の県立蒲生(かもう)高校

住民被ばくが前提

 ──福島第1原発事故を受けて作られた国の 原子力防災指針をどうみていますか。

 今の指針は、米国のスリーマイル島原発事故(1979年)のレベルなら住民の被ばくを防ぐ上で妥当性がないこともないです。しかし、福島事故と同程度の事故に対しては、住民の被ばくが前提となってしまいます。

 避難は、被ばくを避けるためです。今の指針では、5キロ圏内でも全員避難完了はおそらく被ばくが始まってからになってしまうのではないでしょうか。30キロ圏は、避難指示が出されるのは、放射線の空間線量が毎時500マイクロシーベルトとなってからですから、完全に被ばくが始まってからです。指針自体が被ばくしないで逃げられることを考えていない。

 また、入院患者など要援護者は、無理に動かすとかえって危険だからと、施設などに放射性物質を取り除くフィルターを取り付けるなどといっています。要援護者が残るにはサポートする人も残らないといけない。事故の進展によりますが、福島のように地面が汚染されれば、滞在期間が延びれば延びるほど被ばくしてしまいます。

市民の視点で検証

 ──そもそも試算を実施したわけを。  私自身、福島第1原発での規模の事故が発生するとは思っていませんでした。しかし、現実に起きてしまい、周辺に大量の放射性物質がばらまかれました。

 住民の被ばくを防ぐには、原発そのものを止めることが第一です。もし再稼働が避けられないというのなら、実現可能な避難計画がきちんと作られる必要があります。住民の避難が不可能なのに再稼働は、あってはいけないことです。

 よく“原子力村”と言いますが、交通も“村”なのです。ゼネコンや電力の関連会社などが交通関係の試算をやっていて、市民の視点でやってくれません。道路公害の問題でも散々苦労してきました。このため市民の視点でやる必要があると思ったのです。

 今後は、自治体の試算結果に対して、その前提条件が実現できるかをしっかりチェックする必要があります。  本当に逃げられるのか、という問いかけが必要です。最悪のことは考えたくないという心理もあるでしょうが、現実的に考え、原発の再稼働が容認できるのかを考えてほしいです。

(「しんぶん赤旗」2014年5月12日より転載)

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