安倍自民党政権が原発再稼働に大きく舵を切ってきました。再稼働に「最大限の努力」をするとした党の参院選公約を発表。外国への原発売り込みも前のめりの姿勢を示しています。これに対し、東京電力福島第1原発事故の被害に苦しむ福島県内の首長から批判の声が上がっています。
(柴田善太)
原発に安全・安心はない・・浪江町長 馬場有さん
原発事故前、浪江町は7300世帯だったのですが、今は約1万1000世帯。いわき市とか南相馬市に父親が残って働き、家族は県外を中心に避難しているのです。原発事故で、コミュニティーも学校も生業も、すべてのものが崩壊させられたのです。
これだけひどい惨状にあって、今も全町避難が続く中で、しかも原発事故究明もきっちりやっていないのに、原発産業を経済戦略に持ってくるというのは無謀です。私は反対です。
大飯原発にしても他の原発にしても再稼働するのはおかしいですよ。原子力防災計画の見直しが図られています。浪江町もそうですが狭い道路しかない地域はどうやって避難するのですか。そして避難した人をどこで収容するのかも決められないのに…。原発事故が起きたら、安全・安心は確保できないんです。
福島の経験をなぜ教訓にしないのでしょうか。浜岡原発など人口の多いところで事故になれば大パニックになるのではないですか。福島の事故の記憶が風化させられようとしていると思えてしかたありません。
被害の現実 見ない判断・・川俣町長 古川道郎さん
原発事故から2年3カ月たっても、国が責任を持つ山木屋地区(計画的避難区域)の除染が一向に進みません。廃棄物の仮置き場が決まらないことと、山林をどこまでやるのか、除染して放射線量が年間1ミリシーベルトにならない場合どうするのか、国の方針が決まらないためです。住民の協力で仮置き場を5カ所確保して何とか動き出すかという段階です。
避難している314世帯のうち約190世帯から復興住宅をつくってほしいという要望が出ています。やはり仮設住宅は狭いですから、日常の生活用品が置けない上、プライバシーが保てない。農業の再建はどうするか、健康管理をどうするのか、いつ戻れるのか、戻れない期間どうするのか、課題は山積しています。しかし、国からは明確な方針が出されていません。事故後の復旧・復興をどうするか、何もはっきりしていない。
そんななかで国が再稼働を口にすることは、被災地としては、とんでもないことだと思います。
中傷ツイートの復興庁幹部は私も会ったことがあります。有能な人かと思いましたが、あんなことを考えていたとは…。現場の苦労を知ろうとしないのですね。国と力を合わせて何とかしようという時に残念でなりません。
政府の要職にある方は福島の現実を見て、現場を見て、原発事故が起こったらどうなるのかを知って、エネルギー政策の議論をしてほしい。
安倍自民党政権の原発をめぐるこの間の動き
7日 安倍首相、オランド仏大統領と会談。日本での核燃料サイクル、原発の第三国における協力で声明
13日 復興庁幹部がツイッターで川俣町議会を「田舎の町議会…余りのアレ具合に吹き出しそう」などと表現していたことが判明
14日 「成長戦略」を決定。「原子力発電の活用」「原子力発電所の再稼働を進める」と記述
16日 安倍首相、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーの4カ国と首脳会談し、原子力分野での協力で声明
17日 高市早苗・自民党政調会長が「原発事故で死亡者がでている状況ではない」「稼働している間のコストは比較的安い」と講演
19日 原子力規制委員会が再稼働先にありきの新規制基準を決定
20日 自民党が参院選公約。「順次判断」(2012年衆院選公約)としていた再稼働について「最大限の努力」と表現
25日 自民党「電力安定供給推進議連」が「原発は重要電源」とし早期再稼働を求める中間提言