5月、広島市安芸区に小さな市民発電所が誕生しました。担い手は6人と一つのNPO。6人のほとんどが親戚です。“本家”の土地を借りて太陽光パネルを設置し、地元を流れる瀬野川にちなんで「せのがわおひさま共同発電」と名付けました。(君塚陽子)
企画立案し、運営にかかわるNPO「自然エネルギー市民共同発電」会員の木村啓二さん(34)は「小規模の市民発電所をつくる一つのモデルケースです」と語ります。
大きな壁
いま、市民がお金を出し合って自然エネルギーの発電所をつくる際、大きな壁があります。
金融商品取引法改正(2007年)によって、1人からでも「出資」を募る際、第2種金融商品取引業の登録が必要になったからです。登録には、さまざま基準を満たすことが求められ、費用も時間もかかり、小規模な事業では無理があります。
NPO市民共同発電は、勉強会を重ね、発電所づくりに有限責任事業組合(LLP)の仕組みが使えると結論を出しました。「せのがわ」はその第1号です。
「まさか家族ぐるみでやるとは思わなかったのですけど」と照れる木村さん。父の智信さん(60)、母、叔父、弟ら計6人にNPOが加わり、昨年(2012年)秋にLLPを設立しました。
休耕地に
山陽本線の線路脇。使っていなかった農地を転用し、30キロワット太陽光パネルを設置。費用1200万円は、6人とNPOが出資し、NPOは1口10万円の建設協力金を市民から借りて、資金を調達します。(図参照)
協力した一人、大阪府に住む坂本允子さん(77)は「3・11以降、脱原発を願わない日はなかった。市民発電の取り組みを加速させたい」と言います。
予想年間発電量は約3万キロワット時。昨年から始まった電力買い取り制度で中国電力に売電し、収入は年間約125万円を見込みます。そこから地代、保険料や税などを除き、6人とNPOに配当。NPOは借入金返済に当てる仕組みです。
訪ねた日は雨。木村智信さん夫妻はモップ片手に雨がっぱ姿でパネル掃除の真っ最中でした。「電車のレールから飛ぶ鉄粉や、烏のふんで結構汚れる。発電が少ない雨の日は掃除の日。老後の新しい仕事ができた」と笑います。パネルの合間の小さな畑には、小豆や大豆をまきました。
「何しよるんじゃ」と興味津々な近所の人たち。近く看板もつける予定です。智信さんは言います。
「このあたりは耕作放棄地が増え、産業も少ない。地域の人が自然エネルギーに関心を持ってくれれば。石油はいずれなくなるし、原子力はリスクが高すぎる。一つひとつは小さくても広がれば大きな力になると思う」
(随時掲載)
■NPO自然エネルギー市民共同発電 http://www.parep.org/