1,覆土は漏水を止める対策でない
樫曲の民間産業廃棄物最終処分場問題で3月7日、私たち「市民の会」は、環境省と交渉、国と県の責任で処分場からの漏水対策など抜本的な措置をとるよう申し入れました。交渉には藤木洋子衆院議員、専門家の坂巻幸雄(環境学会副会長)さんらが同席しました。
私たちは、応急的に覆土するなどの県の対策方針を批判。「廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)は管理型処分場からの漏水を認めていない。危険物質が流れ出ており、緊急に漏水を止め『生活環境上支障』がある違法状態を変える必要がある。覆土は漏水を止める対策ではないと県を指導すべきだ」と求めました。
2,「少し基準を上回っている程度」と環境省が法を犯す答弁
環境省廃棄物リサイクル対策部の担当者は、「処分場から漏れ出てはいけないが、とるべき方法は他にもある。県には早くやるようにと言っている」(岡本室長補佐)、「処分場から漏れだしてはいけないが、今回の場合ビスフェーノルAは相当の濃度で出ているが、その他の物はヒ素が少し基準を上回っている程度で、その他は多くない」(環境省廃棄物対策課・新池谷係長)と漏水対策に消極的なばかりか、環境省が法を犯す答弁をしました。
3,漏れを認めるなら、法も構造基準もいらなくなる
私たちは、「構造上、国の基準に合わせてほしいというのは国の責任としてある。覆土は、漏水を止める対策ではないとなぜ国は県にいえないのか。この間、搬入停止など指導してこられた、その経過があるのに、漏水を止めろとなぜ指導できないのか。」
「『他にもある』ではなく、基本はまず止めることである。遮水綱を打つか、汲み上げて処理するかが緊急措置で、覆土もその後にあるでしょうと指導しなかったら解決しない。半年も1年の漏れているのを認めるんだった、法律も構造基準もいらなくなる。早急に県を指導すべき」と詰め寄りました。
これに対し、環境省は「知事の判断である。命令指導はできない」(岡本室長補佐)と責任逃れの答弁に終始しました。
私たちは、「敦賀市に住む住民は、一刻も早く漏水を停止させ、安心して水が飲めるよう『命の水』を守ってほしいと願ってる。違法状態は明らかで、速やかな対応が必要だ。法を守らせるよう国が責任を果たせ」と重ねて求めました。
4,3月27日、県の「技術検討委員会」が委員長談話を発表。 ‥‥私たちの疑問と批判を◆ゴシックで合わせて掲載しました。
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(県が行った)追加調査について。
- 堰堤については、これまでの同様の動き(移動クイ)であり、大地震でも問題ない。
◆ボーリングの数が少なく、データ不足でなぜ「問題ない」と言えるのか疑問。 - 漏水量の把握については、今回の調査結果からは把握は困難であり、他に有効な調査方法も見あたらない。
◆既に坂巻・石川両先生が、毎分0.4立米(一日で476立米)と試算している。 - アクティバブルトレサーにいては、構内の集水ピットではトレーサー(漏れ)が発見できたが、他の所では発見されていない。
◆三本のトレーサー試験で、漏水の経路を発見するにはお粗末。もっと効果的な方法で行うべき。
- 堰堤については、これまでの同様の動き(移動クイ)であり、大地震でも問題ない。
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漏水対策について
覆土は、浸出液の削減効果が見込め、応急的な対策であり実施すべきである。処分場内の侵出水が漏水しているかぎり、直接処分場内の排水対策(揚水するという意味)を実施すべきである。
◆私たちが一年も前から指摘してきたこと、早急に実施を。 -
排水(揚水するという意味)については、覆土の効果を見ながら行うべきである。
◆覆土は漏水対策でない。「気休め」にしかならず、緊急に漏水対策を行うべき。
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覆土完了後、覆土の効果が出るまでに時間がかかることから、それまでに施設の排水について、施設の処理能力も含め対応について検討すべきである。
◆今の処理能力は一日150立米。476立米の漏水だけで処理能力を超えている。
5,申し入れの全文を紹介します
2002年 3月 7日
自然と環境を守る敦賀市民の会
会長 山田礼次郎
環境大臣 大木 浩 殿
福井県敦賀市樫曲の一般・産業廃棄物最終処分場について、
漏水対策など緊急施策を実施するよう、求める申入書
昨年11月22日、福井県が設置した「技術検討委員会」は、「ビスフェノールAのデータや処分場内外の水質の類似性から、木の芽川護岸やえん堤下部の排出水と処分場の関連性は非常に高い」と発表。その後行った「熱赤外線調査」で処分場のえん堤下部と真下を流れる木ノ芽川の護岸から温度の高い汚水が流れ出ているのを確認。場所は未確定ながら「処分場内の遮水シートが適正に敷かれていないかシートが破れている」ことなど処分場からの汚水漏れを初めて認めました。そして、「効果的な覆土」を行うなど「応急的な措置を行う」こと、また「えん堤は現状では安定している」との見解を明らかにしました。
しかし、私たちと坂巻幸雄・日本環境学会副会長らとの共同調査によって一昨年(2000年)の8月に、ビスフェノールAに頼らずとも科学的に、電気伝導度や塩化物イオン濃度・硝酸イオンおよびヒ素など重金属などの検出から、処分場からの漏水は疑いないと指摘してきました。
「熱赤外線調査」についても調査をするまでもなく、処分場内の汚水がごみの分解により、発熱するため水温が高くなり、そのため処分場真下の木の芽川の水温を最高で約1℃上昇させていることを指摘してきました。さらに県や市の調査データからも河川水や地下水が汚染されていることが明らかになっています。
また、えん堤については、内部構造やボーリング調査のN値などにより、崩れる危険があることなど、「市民の命、命の水が危ない」と警告してきました。
元凶は、キンキクリーンセンターの無謀な操業にあることは明らかですが、違法を百も承知で7年以上も黙認し、2年以上にわたって漏水を放置し、住民を危険にさらしてきた県、旧厚生省・環境庁の責任も同罪です。
さて今回、福井県の「技術検討委員会」は、応急対策を打ち出しました。しかし、その対策も非常に不十分であり、私たちは環境省が責任をもって県を指導し、次のことを緊急に実施するよう求めるものです。
- 遮水シートが役割を果たしていない以上、抜本的対策としては、漏水防止工事が必要です。えん堤側面の護岸沿いに岩盤深く矢板を打ち込みコンクリート壁を施工する「連続遮水工」を実施すること。さらに、その内側に観測井戸と兼用の汚水汲み上げ用の井戸を数十メートル間隔で掘り、汲み上げた汚水を処理施設で処理し放流すること。
- 「連続遮水工」が施されるまで、汚水発生区間を木の芽川から隔離して処理を行うことが、最低限必要です。具体的には、木の芽川本流を、処分場の上流から迂回用の切り替え水路(暫定的にはコンジットチューブ)を施工し、本流の綺麗な河川水のみを下流に流し、木の芽川を汚染させない措置を講じること。
- 1及び2の工事が完了するまでの間、漏水を減らす対策として、処分場上部にゴムシートを張り、その上に覆土を施工するなど、雨水の浸透を遮断する措置を行うこと。また、処分場の周囲に山腹水路を開削して、周囲に降った雨水が処分場内に入ることを防ぐ工事を実施すること。
- えん堤の安定性について、安定解析を行う場合、堤体内浸潤水位がどの位なのかが重要な要素になりますが、ボーリングデータが少ないため判断できません。 県が「阪神大震災級の大規模地震でも、えん堤上部で小規模の地滑りが起きるものの、処分場外まで被害は及ばない」、「えん堤は現状において安定している」とした、具体的なデータと論拠の開示をすること。また、「道路土工─のり面工・斜面安定工指針」、「道路土工─擁壁工指針」によれば、この処分場の場合「大規模地震動を想定した対策が必要」と書かれています。よって十分な補強工事を実施すること。
- 木の芽川への漏水について、調査当日以前の雨量、河川の水量、護岸から漏れだしている汚水の総量とその中のヒ素など金属類の濃度など、科学的に分析し、全体の「負荷量」「総排出量」を割り出し、「住民の生活環境の安全に重要な支障が生じて」いないか判断すること。また、以上のような立場での、護岸からの漏水を含めた河川水の第二回目の合同調査を実施すること。
- 今回の問題で県民、市民に一切責任はありません。国、県がその責任であらゆる手だてをつくし、そのうえで行政代執行をせざるを得ない状況になったとしても、その処理のために福井県民の税金を使うことは許されません。そのためにも業者の利益、蓄財の関係などすべての実態を正確につかみ、代執行の費用については業者に負担させること。さらに、業者が責任を放棄した場合、国、県の責任で措置すること。
また、国の財政措置として、「支障の除去等の処置」(「廃掃法」19条の5の一の規定による)のために適正処理推進センターが貯える基金、通称「現状回復基金」(同13条の15)があります。国も責任を認めており、代執行になった場合はそこから拠出すること。 - 坂巻幸雄・日本環境学会副会長、石川孝織・日本環境学会会員(東京学芸大学大学院)の調査によれば、木の芽川へ汚水が毎分0.4立米漏れだしており、住民の「生活環境の保全上支障が生じ」ていることは明らかです。(このときの、木の芽川の流量は毎分28立米。汚水流入量は河川流量に対して約1.4%となります。) その「支障の除去」のための対策について、施工性、耐久性、経済性などを考慮してもゴミの撤去が妥当であると考えます。よって期限を切って、事業者に撤去を要求するとともに、事業者が責任を放棄した場合は、国、県が責任をもって行うこと。
以上