福島第1原発事故を受けて世界に先駆け、2022年までの脱原発を決定したドイツ。その決定に大きな役割を果たした「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の報告書を読みました(吉田文和、ミランダ・シュラーズ編訳『ドイツ脱原発倫理委員会報告』大月書店)。
同委員会はメルケル首相が任命した科学技術者、宗教者、社会学者、政治学者、経済学者など17人からなり、原子力の専門家や電力会社の関係者は一人もいないのが特徴です。
キーワードは「倫理」。エネルギー多消費の都市のために原発をへき地に建設し、事故のリスクを負わせるのは不公平ではないのか。放射性廃棄物処理の禍根を次世代に残しながら、エネルギーをほしいままに使う生活を続けることが正しいのか。
「倫理」とは、「自然と人類」に対する「責任」、「持続可能性」「合理的で公平」であることと考察。報告書は「人間は技術的に可能なことを何でもやってよいわけではない」とし、自然エネルギーの普及は将来の経済発展にも有効であり、原発に倫理的根拠はないと結論づけます。
委員の一人、ベルリン自由大学教授のシュラーズさんは、原発問題を倫理的次元で検討しようとする姿勢は「政策に十分な倫理的配慮を伴わなかったドイツの暗い過去の教訓から出発している」と分析します。
片や、がむしゃらに原発再稼働と原発輸出を進める安倍政権。そこに「倫理」はあるのか。日本政府に原発ノーの決断を迫るには、国民の良識と運動しかありません。