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原発新基準(下)なぜ「立地審査指針」は取り入れられなかった・・線量を収めるめどたたず

原子力規制委員会の田中俊一委員長は5月16日、国会で日本共産党の笠井亮衆院議員から新基準に立地指針を取り入れなかった問題を問われ、「最悪の場合でも(セシウム137で)100テラ(1テラは1兆)ベクレル以上の放出がないようにということにしてあります」「100テラベクレルぐらいですと、100ミリシーベルトとかそんなものよりずっと低くなる」と答弁しています。

大量の放射性物質が放出された東京電力福島第1原発事故(写真は、手前から事故直後の3、4号機)=2011年3月15日撮影、東京電力提供
大量の放射性物質が放出された東京電力福島第1原発事故(写真は、手前から事故直後の3、4号機)=2011年3月15日撮影、東京電力提供

セシウム以外無視

つまり新基準は、重大事故時の敷地境界の被ばく線量を求めない代わりに、原発にフィルター付きベントの設置を求め、その性能目標としてセシウム137の放出量が100テラベクレル以下となるよう求めているというわけです。

元原子力安全委員会事務局技術参与の滝谷紘一氏は「ベントに成功すれば、セシウムはフィルターで低減できますが、キセノンなどの希ガスは、フィルターを素通りし、大気中に放出されてしまいます。このセシウム以外の放射性核種を無視した答弁です」と指摘します。

では原子炉内の希ガスがすべて放出された場合、敷地境界での全身被ばく線量はどうなるのか。滝谷氏は、過去の原発の設置許可申請書をもとに5カ所の原発で試算しました。それによると、中部電力浜岡5号機(静岡県御前崎市)では約3万7000ミリシーベルト、東京電力柏崎刈羽原発6号機(新潟県柏崎市、刈羽村)で約2300ミリシーベルトなどとなり、立地指針の目安線量である250ミリシーベルトをはるかに超えてしまう可能性があるのです。

滝谷氏は「目安線量に収まるめどが立たないので立地指針の方をなくした。その代わりに、新基準ではフィルター付きベントによりセシウム137を100テラベクレル以下に抑えるというのを入れた。しかし、希ガスだけを考えてもフィルター付きベントで住民を被ばくから守ることができないのです」と強調します。

規制委の事務局である規制庁は7月、笠井議員の文書での質問に対し、新基準に立地指針を取り入れない理由について、従来の立地審査は格納容器の損傷を想定せず、原子炉から敷地までの距離を確保することで敷地周辺での線量を一定水準以下にすることを求めていたから、その「考え方自体に問題があった」と説明しています。

想定の見直し必要

滝谷氏は「全くの論理のすり替えです。重大事故、仮想事故の想定内容に問題があったのであり、これを見直すべきなのです。新基準は原子炉の位置の適合性を評価しておらず、『位置、構造及び設備』が原子炉災害の防止上支障がないということを規定している原子炉等規制法にも反します」と指摘します。
(おわり)
(松沼環)

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