福島・相馬 松川浦漁港
福島県相馬市の松川浦漁港に漁船がくっつくように幾隻も停泊しています。昨年(2012年)6月から続いてきた相馬双葉漁協の試験操業が中止になり海に出られないためです。漁港に漁民の姿もみえません。東京電力福島第1原発の放射能汚染水の海への流出によって福島の漁業関係者は窮地に立たされています。(柴田善太)
窮地に立たされ
相馬双葉漁協では今月から試験操業の種目にシラスを加える予定でしたが、タンクから汚染水が漏れるという事態を受け、今までの品目も含め試験操業は中止しました。いわき市漁協も今月から試験操業を行う予定でしたがこれも中止。福島の試験操業は全てストップしました。
相馬双葉漁協原釜支所小型船主会会長を務める今野智光(としみつ)さん(54)は、「3月からのコウナゴの試験操業も順調で、浜も結構活気づいていた。『さあシラスも』という時期に、東電が汚染水の海への流出を認めた。状況は大きく変わった。逆戻りだ」と悔しがります。
東電は汚染地下水の海への流出を止める方策として、山側の地下水をくみ上げ海へ流す計画ですが、汚染水が漏れたタンクはくみ上げ地点より山側に位置しています。
先月、国の担当者が漁協への説明会にきました。原発事故以降、国の担当者がきたのは初めてです。
今野さんは「くみ上げ地点をもっと山側に変更しろといったら、国の担当者は『相談します』と答えたが、予定通り、変えないようだ。何のための説朋会だ」と憤ります。
今野さんはいいます。
「息子が漁師を続けたいといっている。今の若い漁師が将来、漁師をやっていてよかったと思える環境を整えないといけないと思って頑張るだけだ」
東電、賠償せず
漁師とともに大きな打撃を受けているのが仲買業者など流通・販売に携わる人たちです。
東電に対する損害賠償の運動にも携わる相馬市のスーパー「中島ストア」の中島孝社長(57)は、「流通・販売業者への賠償は厳しい」と指摘します。
中島さんがかかわったある仲買業者の場合はこうです。
▽2010年は工場整備などで赤字決算
▽原発事故で福島の魚が扱えなくなり従業員を解雇。家族経営にして九州での取引で100万円の経常利益を出す−。
東電の対応は、前年が赤字で2011年は黒字なので原発事故による営業損害はなく賠償はできないと主張するという理不尽なものでした。
中島ストアでは試験操業の魚介類の販売をしてきましたが、売り上げは減っています。
中島さんは「汚染水の垂れ流しが続く以上、放射能検査をして基準内でも、福島と近隣の魚介類に対する消費者の不信は続いていく。海にかかわる商売をやっているものにとっては死活問題だ。国が責任をもって汚染水対策に総力をあげるべきだ」といいます。