深刻さを増す東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水問題。政府の原子力災害対策本部は9月3日、東電任せにするのではなく国が前面に出て必要な対策を実行するとする汚染水問題に関する基本方針を決定しました。電力中央研究所の元主任研究員・本島勲氏(岩盤地下水工学)に汚染水問題をどうみるか話をききました。(聞き手 松沼環)
当事者能力のない東電任せではなく、政府が責任をもって実行していくことは当然です。政府が打ち出した基本方針は、国費の投入などには踏み込んでいますが、実施しようとする中身は東電の計画していた対策を列記して追認しているにすぎません。
永久保管の貯水槽を
もともと福島第1原発1~4号機付近では、建屋に働く浮力を防止するために事故前から1日に850トンもの地下水をサブドレーンと呼ばれる井戸からくみ上げていました。サブドレーンは、津波やその後の建屋の爆発などで機能しなくなりました。その大量の地下水の一部が、原子炉建屋などの地下階に流入し、溶融燃料を冷却した水と混ざり、汚染水を増大させています。
汚染水問題への対応は、汚染水を増大させる建屋地下階への流入抑制と汚染水の安全な保管です。当面の課題は、安全な保管のため永久構造物として貯水槽の建設を急ぐべきです。
複雑な地下水の分布
また、建屋の地下への地下水の流入を止めるため、建屋を取り囲む凍土遮水壁の設置を計画していますが、大規模かつ長期にわたる実績は世界にもありません。ほかに提案された方式とともに実証試験で確認したうえで、慎重に実施されるべきです。
その際には、地質構造や地下水流の状況を広域に3次元的に調査・解析することが必要です。特に、岩盤内の地下水は浅いところの地下水と異なり、分布も挙動も非常に複雑です。
福島第1原発の敷地は、東電の資料によると、水をよく通す砂岩の下に、水を通しづらい泥岩、その下に砂岩と泥岩の互層、さらにその下に泥岩が分布しています。互層を流れる地下水は、港湾の外に湧出している可能性があります。このため互層の地下水が汚染された場合、汚染が外洋に直接放出されてしまう恐れがあります。港湾外もふくめて、海底で地下水の湧出を直接調べる必要があると思います。
現在、汚染された地下水の海への流出を止めるため、海側に水ガラスによる遮水壁がつくられていますが、地下水対策の基本は出口ではなく入り口です。遮水壁を施工したために地下水位が上昇し、慌てて地下水をくみ上げていますが、予測できたことです。さらに、水ガラスによる遮水はそれほど完璧ではないはずで、完成しても多少の漏出は続くはずです。このためより上流側で地下水の流入を防ぐ対策が必要です。
対策の再構築が必要
今回の政府の決定で、「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」など政治の検討の場は用意されましたが、科学的な検討の場はいまだに十分ではありません。
地下貯水槽からの汚染水の漏出を契機につくられた政府の汚染水処理対策委員会も、科学的なバックアップが不十分です。会議で示される資料のデータは全て東電のもので、独自の調査はほとんど行われていません。
これまでの対症療法的対応でなく、リスクの洗い出し、予防的対策に切り替えていく必要性は、政府も認めています。総合的、抜本的な検討、対策の再構築が緊急の課題です。そのためには、科学的、技術的英知を結集する必要があります。いま、求められるのは研究所や大学などを動員した技術集団を結成することです。
放射性物質に汚染された地下水が海に流出し続けている東京電力福島第1原発