原子力規制委員会が9月19日で発足から1年。田中俊一委員長のこれまでの発言を振り返ってみました。首をかしげざるを得ないことがしばしばあります。
政治からの独立怪しく
発足直後、委員長の記者会見から「しんぶん赤旗」を参加させない方針が発覚しました。規制委事務局である原子力規制庁が次々に持ち出す「理由」が破たん。規制委には「規制委の最初の仕事が報道規制か」と批判が集中し、8日後に排除方針を撤回せざるを得ませんでした。
この時、田中氏は、政党機関紙の記者が会見に参加すると「(規制委の)政治からの独立が少し怪しくなる」と耳を疑うような発言をして驚かせました。
田中氏の発言は、時とともに変わり首尾一貫しないという特徴があります。新しい原子力災害対策指針改定で、防災重点区域は従来の原発8~10キロ圏から30キロ圏に拡大。各自治体は地域防災計画の策定を義務づけられていますが、事故時の避難計画などは進んでいないところがあります。
防災計画つながらず
田中氏は当初、地域防災計画ができていなければ「再稼働の議論にならない」と明確に述べ、計画の実効性についても検証が要るという考えを示していました。
しかし、年が改まり、再稼働の前提となる新規制基準の骨子案ができるなか、 「防災計画と原子炉の運転はダイレクト(直接)につながらない」と発言。地域防災計画は自治体の責任だと繰り返すようになりました。規制委として、できた計画についての実効性の検証作業も見えません。
大飯を例外扱いせず
新規制基準づくりが進められるなか、国内で唯一稼働している関西電力大飯原発についても、田中氏は「大飯だけ例外扱いしない」と言っていました。
ところが、田中氏は「私案」なるものを定例会議で提案し、新規制基準施行前に確認作業をすると決定。確認作業の間、担当した島崎邦彦委員長代理や更田(ふけた)豊志委員らから疑問や注文が相次ぎ、関電がそれにまともに応じようとしないのに、「おおむね適切」などと運転継続を容認しました。
さらに、敷地内を走る破砕帯(断層)が活断層かどうかの調査で専門家が報告書も作成していないのに、田中氏が「ある程度(見解が)固まった」などと突然、再稼働審査の開始を決定しました。
田中氏は会見で「規制委は、甘ちゃんではない」と大見えを切っていましたが、実際は再稼働を急ぐ電力会社の意に沿う大甘ぶりを発揮しています。
濃度低いもの捨てる
田中氏は、東京電力福島第1原発で深刻化する放射能汚染水問題でも、「濃度が十分低いものは捨てられるように」と繰り返し発言しています。これは東電が汚染水から放射性物質を除去するとして進めている「多核種除去設備」にかかわる発言ですが、処理してもトリチウム(3重水素)は取り除けません。地元の漁民らが反対していることを無視し、東電が狙う海洋放出の道を後押しするものです。
その後も、安倍首相が国際オリンピック委員会総会で「状況はコントロールされている」など実態を無視した発言を行い、批判が相次いだことに、「コントロールされているかは考え方」だと安倍発言を擁護。その一方、不安をあおっているとメディアを批判しました。
主な田中氏の語録
- 「地域の防災計画ができないと、最低限の条件はそろわない。そこがきちっとしていなければ、とても再稼働という議論にはならない」(2012年9月26日)
- 「防災計画ができないとなると、原子力発電所の稼働の条件ではないけれども、なかなか困難なことになる」(10月24日)
- 「大飯だけ例外扱いできない。次の定期検査(9月)まで(動かして)いいということにならない」(13年1月23日)
- 「防災計画と原子炉の運転はダイレクトにつながるものではない。防災計画の責任は県とか基礎自治体が持っている」(3月19日)
- 「(放射性物質の)濃度が十分低いものは捨てられるようにしないと、にっちもさっちも行かなくなる」(7月24日)
- 「(再稼働の申請が)いいかげんでも何とかしのげると思ったら、今度の規制委は、そんなに甘ちゃんではない」(同)
- 「(安倍首相の国際オリンピック委員会総会での発言について)コントロールされているかどうかは考え方。世の中それほど(100%)コントロールできることはない」(9月11日)