
2011年3月の東京電力・福島第1原発事故発生から14年―。昨年、難航していた核燃料デブリの試験的取り出しに初めて成功し、回収した0・7グラムの試料の分析が進められています。とはいえ、総量880トン規模のデブリの本格的な取り出し、根本的な汚染水対策など、事故収束の道筋はみえていません。(中村秀生)
1月中旬、原発構内の合同取材に参加しました。1~4号機を見渡せる高台。正面に見える1号機原子炉建屋の上部には、ぼろぼろになった鉄骨やがれきなど、いまだに水素爆発の傷痕が生々しく残っています。一方、建屋の左側には昨年にはなかった白い壁が見えました。
建屋全体を覆う「大型カバー」の一部です。がれきの下の使用済み核燃料プール内には、燃料392体が取り出せないままの状態になっています。燃料を取り出すには、がれきを撤去しなければなりませんが、ダストを飛散させないためにカバーが必要です。白い壁の上部には今後、屋根が設置され、カバーは今年夏ごろに完成する予定です。
燃料プールのあるフロアは高い放射線量です。東電の広報担当者は「除染や遮へいをして、人が作業できる状態をつくったうえで、燃料取り扱い設備を設置する」と説明します。27~28年度の燃料取り出し開始をめざしています。
水素爆発を免れた2号機も、プール内に615体の燃料が残ったまま。原子炉建屋の南側に燃料搬出のための巨大な設備を設置しました。建屋の壁に開けた穴から燃料を取り出す計画で26年度までに開始予定。
気が遠くなる作業
2号機では昨年11月、原子炉格納容器内から、溶け落ちた核燃料デブリを取り出すことに成功しました。当初予定していたロボットアームの開発に難航し、釣りざお状の装置を使う方法に変更して約3年遅れで始まった作業は、手順ミスやカメラの不具合で中断を繰り返しました。
ようやく回収に成功した核燃料デブリは、大きさ約9ミリ×7ミリメートル、重さ0・7グラム。全体的に赤褐色で、表面には黒色や光沢の領域がありました。研究機関による分析で、ウランなどの燃料成分や原子炉構造物由来と推定される成分が確認されました。今後も詳細な分析を進める予定です。
デブリ回収について東電の担当者は「1粒ではあるが取り出せたのは一歩、大きな前進。廃炉の道筋が先に進んだ」と話しました。
東電は、今春にも同様の方法で2回目のデブリ回収に挑み、ロボットアームを使った回収の準備も進行中。取り出し規模を徐々に拡大する方針です。
合同取材では、炉心溶融に至らなかった5号機の格納容器内に入り、2号機で釣りざお状の装置を挿入した場所と同じ格納容器の貫通部、原子炉圧力容器直下の状況を確認しました。1粒のデブリ回収にかかった困難を考えると、格納容器内にあるデブリ数百トンの回収は気の遠くなる作業になるのではないか…。そんな思いを強くしました。
現場に広がる不安
原発構内には、日々発生する汚染水からセシウムなどを除去した「アルプス処理水」などをためたタンクが1000基以上並んでいます。処理水は、放出基準を超えるトリチウム(3重水素)を含んでいるため、法令上そのまま環境に出すことはできません。
政府・東電は23年夏、国内外の反対や懸念の声を押し切って、処理水を海水で薄めて海に放出する計画を強行。すでに総放出量は約8万トンになっています。
タンクエリアの一角では空になった一部タンクを解体するための準備が進んでいました。今年2月に解体に着手。空いた敷地は、デブリ関連施設に利用するといいます。構内では、事故初期に高濃度汚染水をためていたタンクも、さびた姿を見せて解体を待っていました。
汚染水の発生量は、さまざまな対策によって当初より大幅に低減したものの、いまも1日当たり80トン規模(23年度)のペースで増え続けています。地質学の専門家たちが提案している広域遮水壁の設置を、政府・東電は真剣に検討していません。根本的な対策ができなければ、海洋放出が続くことになります。
この1年間に、デブリ取り出しに向けて“新たな一歩”を踏み出した事故収束作業。一方で、汚染水処理設備での身体汚染や建屋からの汚染水漏えい事故などの続発で、作業員の不安も広がっています。
事故発生から14年、いまも現場では暗中模索が続いています。
廃炉計画 見直し必要 専門家
廃炉の最難関とされる核燃料デブリの取り出し。今回の0・7グラムの試料によって、廃炉の展望はみえてくるのでしょうか。
核燃料の専門家で、日本科学者会議原子力問題研究委員会メンバーの岩井孝さん(元・日本原子力研究開発機構研究員)は「研究者としては興味深い。何が起こったのかを知るうえで役に立つ。今後も他の場所や他の号機から回収できるだろう。ただ、それをやったからといって、廃炉計画が大きく進展するとはとても思えない」と話します。
炉心溶融を起こした1~3号機には、総量880トン規模のデブリが存在していると推定されています。
岩井さんは、3基から1日当たり計100キログラム取り出したとしても、年間の稼働日を200日とすれば40~50年かかると指摘。2051年までにデブリを全量取り出すという政府・東電の廃炉計画について「工学的な見通しは立たない」として、立ち止まって見直すことが必要だといいます。
岩井さんは、事故機の建屋を上部から堅固な構造物で覆い、下部にお椀(わん)状の地下ダムを設置して地下水を遮断することを提案しています。汚染水を増やさずデブリを閉じ込めた状態で安全を確保しながら、数十年間の“時間稼ぎ”をして、▽デブリを取り出すのか▽原子炉を解体するのか▽大量の放射性廃棄物をどこに処分するのか―といった最終的な処分の形について、社会的な合意形成をつくることが大切だといいます。
「最近、国民的な関心も薄くなっている気がする」という岩井さん。真剣な議論を呼びかけています。
(「しんぶん赤旗」2025年3月8日より転載)