地域の資源を再生可能エネルギーとして活用し、同時に地域活性化や地域課題の解決につなげる取り組みが群馬県で進んでいます。2013年に国内で初めて自治体が中心となって新電力会社を設立した中之条町では、株式会社中之条パワーが、さまざまな困難を乗り越え、町内の太陽光発電と小水力発電で生みだした電気を供給しています。(佐久間亮)
中之条町は東京駅から特急と在来線を乗り継いで約2時間。面積の87%が森林という山あいに約1万5千人がくらします。現在町内4カ所の大規模太陽光発電(約7千キロワット)と一つの小水力発電(135キロワット)が稼働。年間発電電力量は一般家庭2200世帯の消費電力量に相当する930万キロワット時を見込み、町内を中心に公共施設や事業者、家庭に大手電力会社よりも安い料金で電気を届けています。
原発事故契機に
同町が再エネに取り組むようになったきっかけは11年の東日本大震災・東京電力福島第1原発事故です。被災地訪問で再エネの重要性を感じた当時の町長の着想を出発点に、13年には町議会が「再生可能エネルギーのまち中之条宣言」と「再生可能エネルギー推進条例」を全会一致で可決。同年8月には電気事業のノウハウを持つ株式会社V―Powerとの共同出資で新電力会社・一般財団法人中之条電力を設立しました。
福島原発事故では中之条町も放射能汚染の深刻な被害を受けました。特産のしいたけや川魚が出荷できなくなり、イノシシ肉のサラミやコロッケの商品開発も頓挫。化石燃料でも原発でもない再エネの重要性に光が当たったといいます。
町エネルギー対策室長として新電力会社立ち上げに奔走した山本政雄さん(現中之条パワー社長)。「町長から1カ月で財団をつくれと言われ安請け合いしましたが、簡単じゃありませんでした」と笑います。公証役場の丁寧なアドバイスを受け、書類を整えて財団を新電力会社(特定規模電気事業者=PPS)に登録すると、自治体第1号のPPSとなりメディアも注目。その後16年の電力自由化を機会に財団が100%出資する中之条パワーを設立し、小売り事業を引き継ぎました。
負担をかけない
再エネ事業の立ち上げで気を付けたのは町財政に負担をかけないこと。町内4カ所の大規模太陽光発電事業のうち、最初の1カ所は町有地を使って民間企業が発電事業者となる計画としました。町が発電事業者となった後続の3カ所も、太陽光パネルの設置、運転、管理は民間企業が担うリース方式とし、初期投資を町が負担しなくてすむようにしました。
「もともとは民間発電所方式で全てやるつもりでしたが、当時は雪が多い北関東は太陽光発電に向かないという認識が強く、企業が手を挙げませんでした」(山本さん)
後続の3発電所の主体が結果的に町となったことで、思わぬ効果もありました。山間部のため開けた土地が少ない同町。沢渡温泉第1太陽光発電所は、使われなくなった国有林の種苗場を借り受けて設置しました。同第2太陽光発電所は、所有者の陳情を受けて買い取った耕作放棄地につくりました。国有林を所管する林野庁との交渉や耕作放棄地の買収・転用は、自治体が主体だったことでスムーズに進んだといいます。
毎年利益を積み上げ、従業員2人の雇用を生みだし、農家とともに農地のソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)にも取り組む―。順調に見えた中之条パワーに20年末、突如とんでもない危機が襲います。(つづく)
自立へ重要
日本共産党の原沢香司町議の話 エネルギーの地産地消は、食糧の自給自足と同様に地域の自立にとって重要なことです。温暖化対策や雇用創出という価値も含めて、行政がしっかり支え、中之条パワーの存在が町民の理解と応援を得られるように後押ししていきたいです。
(「しんぶん赤旗」2025年1月22日より転載)