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原発推進のエネルギー基本計画/福島から怒りの声

(右)伊東達也さん(左)中島孝さん

国のエネルギー政策の指針となる第7次「エネルギー基本計画」(エネ基)の案を経済産業省の審議会が了承し、現在、意見募集が行われています。政府の原発推進政策を反映し、原発の最大限活用をうたい新増設も容認した今回の計画案。2011年の東京電力福島第1原発事故の被害の賠償を国、東電に求め訴訟を起こした被害者原告団の現・元団長の2人に聞きました。

 (松沼環)

県民愚弄、許されない

いわき市民訴訟元原告団長 伊東達也さん

 福島の実情、惨状を無視して原発はじめエネルギーの問題を議論することはできないはずです。原発事故発生からほぼ14年たって、大変な事態が一層明確になっています。

 一つは、少なくとも今も4万7000人が元の地域に戻っていません。これは避難指示区域を有した12市町村で、現時点で住民登録している人から実際に住んでいる人を差し引いた人数です。しかし、住民登録を別の市町村に移した人もいますし、さらには新しい住民もいます。だから4万7000人は最低限で、実際には戻れていない人がそれ以上いることは間違いありません。

 ところが国が避難住民と認めている人数は2万5000人です。大きな開きがあります。

 産業の復活もまだです。福島県の漁獲量は、震災前の20%台です。水稲の収穫量は、全県で事故前の70%台、役場ごと移転した9町村では13・9%と、産業が破壊されたままです。そういったことにエネ基はほとんど触れず、原発の最大限活用が必要だとしています。決して許されるものではありません。福島県民を愚弄(ぐろう)したものです。

 また、2040年の電源構成で原発を2割程度にするには、原発を三十数基動かさなければなりません。計画通りに進めようとすれば、3・11前のように規制が形骸化し、再び原発の大事故が起きるのではないか非常に心配です。

 エネ基では、特定の電源に過度に依存しないようにと言っています。特定のエネルギーとは再生可能エネルギーを指していて、日本のエネルギーのほとんどを再エネで賄うといった考えを阻止したいという姿勢です。

 その上で、原発も脱炭素だとして、原発の建て替え、新設を認めるようとしています。これは二重の嘘(うそ)です。

 エネ基の主張は、原発関連企業の主張のそのままです。「しんぶん赤旗」で原発関連企業が、自民党に献金を繰り返していることが報道されていました。これは多くの人に知ってほしいです。原発推進の原動力になっている企業・団体献金をやめさせることがますます重要だと思います。

危険実態を全くの無視

「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団長 中島孝さん

 これまでの計画では、可能な限り「原発依存度を低減」するという方針がうたわれていましたが、今回のエネ基本計画では、手のひらを返すように全面活用にかじを切りました。

 しかし地震、津波、火山など自然災害は想定を超えることが繰り返し起きています。そんな中、原発に依存して再稼働するという道が本当に正しいのかが問われています。想定外を想定して対策をとることはできないのですから、第2の福島第1原発事故はまたどこかで起きてしまう。

 今度の計画は、原発が持っている危険性に全く目をつむっており、安全対策を棚上げにしてイケイケどんどんです。日本経済にとっても、原発は安心して依存できるエネルギーではありません。計画は実態を全く無視しています。

 また、原発の発電量は高くても電源構成の20%ぐらいですから、他はどうするのか。再生可能エネルギーは4~5割ぐらいまでは増やしますが、あとは化石燃料の依存が必然的です。九州電力をはじめ各地で、原発を優先して再生可能エネルギーを系統から切り離す、出力抑制が行われています。日本は温暖化ガスの削減を世界に公約しているはずなのに、今回の計画は矛盾だらけです。

 化石燃料にも依存するということは、今も円安で大変な状況が続いていますが、今後も輸入に頼った化石燃料で、暮らしを痛めつけることになります。

 さらに、原発はトイレなきマンションと言われてきましたが、原発を動かせば、使用済み核燃料があふれかえります。こんな発電方法を国民に押し付けることは無責任の極みです。

 国民の安全、脱炭素、国民の暮らしを守る点でも何の理性も正当性もないのが今回の計画です。いずれの点でも、受け入れることのできない内容です。

(「しんぶん赤旗」2025年1月16日より転載)