2024年8月14日【1面】
第7次エネルギー基本計画の議論が始まっています。計画は中長期のエネルギー政策の方向性を示すもので、3年に1度改定されます。論点の一つが、2021年の第6次計画のとりまとめの際に、低下するとされていた将来の電力需要が、近年の人工知能(AI)やコンピューターサーバーなどを備えたデータセンターの増加で増大するといった予測が示されていることです。審議会の議論では、増大する電力需要にこたえるために、原発の新増設などが言及されています。しかし、議論の進め方に疑問の声が上がっています。
第6次の計画では、19年の電力需要が9273億キロワット時だったのが、30年に省エネや人口減を考慮して8640億キロワット時に低減する見通しを示していました。
5月に始まったエネルギー基本計画を議論する経済産業省の審議会では、斎藤健経済産業相は「AIの社会実装、それに伴うデータセンターの拡大などDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、脱炭素電源に対する需要が拡大すると指摘される」とした上で、「いま日本はエネルギー政策における戦後最大の難所にある」などと危機感をあおっています。
審議会事務局の資源エネルギー庁は複数の研究機関による40年、50年の電力需要見通しを示しています。それによると、40年で1兆キロワット時前後、50年には現状と同程度の9000億から1兆3000億程度と研究機関で大きな幅があり、予測の難しさを示しています。
しかし、審議会の議論では、電力需要の増大を前提に進んでいます。そのため、原発の再稼働のみならず、新増設や火力発電の新設まで必要性が主張されています。
「火力や原子力の新設・リプレースといった極めて政治性の高い政策については、より強い拘束力を有する形を整えていただきたい」などとして、「今のうちに、早急に(原発の)事業環境整備が必要」といった原発新設のために環境整備を求める意見が出ています。
再エネ大幅導入を本気に
現在再稼働した原発は12基ですが、電力供給における割合は5・5%(22年度)。政府が進める再稼働と老朽原発の延命を続けても、40年以降、多くが廃炉になるとみられます。
そのため新増設の投資を行うための環境整備を求める声もあります。政府はこれまでも、原発を脱炭素電源と称して、原発事業者に資金が回る仕組みを作ってきました。しかし、新増設となれば、より巨額の資金が必要となることから、投資の予見可能性を高めるためとして、電力自由化前の総括原価方式に近い方式など、国による一層の支援策を求める声が複数の委員から出ています。
一方で、委員からは「エネルギー需要の見通しについてはしっかり検討するとともに、同時にエネルギー効率の改善、需要抑制の施策がしっかりと入っていくことが極めて重要」などの声もあります。
自然エネルギー財団の石田雅也研究局長は、「過去を見てもインターネットがこれだけ爆発的に普及しましたが、結果として日本の電力需要は増えていません。AIについてもそれと同じ道をたどる可能性が大きいとみています」と話します。
日本の電力消費量は、70年代以降2倍以上に増大し、2007年度は1兆613億キロワット時とピークになりました。その後、減少傾向に転じ、金融危機や東日本大震災後の節電の取り組みもあり、22年度には9028億キロワット時まで低下しています。
この間、デジタル技術の発展と普及は進んでおり、日本でもクラウドの普及などデータセンターの利用は拡大しています。
石田氏は、「全世界でAIの普及によって電力需要が増えた場合も、同じように日本で増えるかというとそういうことにはならない。今多くのデータセンター事業者は再エネ100%を目指しているので、日本のように再エネがなかなか使いにくい所だと、日本向けのサービスも再エネが使いやすい国で処理をして提供されることになるでしょう」といいます。
本気になるべきは、再生可能エネルギーを大幅に導入するための施策です。
(松沼環)
(「しんぶん赤旗」2024年8月14日より転載)