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「原子力村」の結びつき 最高裁判事と巨大法律事務所と国/ジャーナリスト 後藤秀典さんに聞く(上)

東電代理人事務所に天下り

 最高裁判事と巨大法律事務所と国、「原子力村」が結びつき、司法の「公平らしさ」を損なっているのではないか―。原発事故被災者の取材とともに、この結びつきを明らかにしてきたジャーナリストの後藤秀典さんに聞きました。(三木利博)

 ―調べるきっかけになったのは?

 後藤 原発避難者訴訟の原告が裁判で東京電力から攻撃されていることを雑誌に一昨年、連載しました。それを読んだ、高裁判事を長年務め司法行政を取り仕切る最高裁判所事務総局に勤務した経験のある弁護士から、最高裁と巨大法律事務所と東京電力が結びついていると聞いたことからです。最初はぽかんとしました。少なくとも司法の独立性はそれなりに担保されているのではないかと考えていたからです。ところが調べると、500人以上の弁護士を抱える巨大法律事務所が最高裁に判事を送り出し、退官した判事が巨大法律事務所に天下りすることが当たり前のように行われていた。こんなことで公平・公正な裁判が担保されるのか、驚きと怖さを感じました。

「肩すかし判決」

 ―2022年6月17日、東電福島第1原発の事故を巡って4件の損害賠償訴訟で国に法的責任はないとする最高裁判決が出ました。後藤さんは、判決を出した4人の判事のうち菅野博之裁判長が翌7月に定年退職し、8月には巨大法律事務所の顧問に就任したことを明らかにしました。

 後藤 6・17最高裁判決の内容を端的にいうなら、福島第1原発事故について“想定を超える大きな津波が来たので、たとえ事故前の予測に基づいて国が東電に命令し、東電が防潮堤などを造る対策を取ったとしても、過酷事故の発生を防げなかった。だから国に責任はない”というものです。高裁まで原告と被告が議論をたたかわせ積み上げてきた争点―大津波の予見可能性を示した国の地震予測「長期評価」の信ぴょう性―などの判断を避けた「肩すかし判決」といわれています。その後、この判決がまっとうだと論評したものをほとんどみかけません。

2カ月たたずに

 判決を担当した最高裁第2小法廷の4人の判事のうち、裁判長はじめ3人の判事が判決を支持し、検事出身の三浦守判事だけが国に責任があると反対意見を述べました。

 裁判長だった菅野氏が顧問に就任した長島・大野・常松法律事務所の弁護士は、東電の旧経営陣に賠償を求めた東電株主代表訴訟で東電側の代理人を引き受けています。元裁判官の樋口英明氏は、最高裁は下級審の裁判官に対し「公平らしくあれ」と言う、その意味は「公平であるのは当然であり、その公平性が外からも見えるように注意しなさい」ということだと述べています。6・17判決で一方の被告だった東電をクライアント(依頼人)にする法律事務所に、判決から2カ月もたたないうちに顧問になるのは「公平らしく」はみえないのではないか。国に責任がないという判決を出した岡村和美判事も弁護士になって最初に所属したのが長島・大野・常松法律事務所の前身。草野耕一判事は判事になるまで、別の巨大法律事務所の西村あさひ法律事務所の代表経営者を15年務めました。(つづく)

 ごとう ひでのり ジャーナリスト 1964年生まれ。テレビの報道でディレクター・プロデューサーを務める。NHK「消えた窯元10年の軌跡」、「分断の果てに“原発事故避難者”は問いかける」(貧困ジャーナリズム賞)など。著書『東京電力の変節―最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』(貧困ジャーナリズム大賞)。

(「しんぶん赤旗」2024年3月11日より転載)