きょうの潮流

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の福島に関する大学生の知識は時間の経過とともに薄れてきている―。福島大学などの研究者が授業の出席者を対象に「原発事故と避難」などの知識を調査した結果です▼同じ全20問について計3年間の正答率が年々下がっているというのです。たとえば、原発事故後、風向きの影響で多くの放射性物質が降り注いだのは主に原発からどちらの方向かという設問。北、西、北西、南西などの5択から選ぶというものです▼正解は「北西」ですが、2019年度の正答率は53・9%で、22年度は39・4%に低下。ほかに、当時の官房長官の言葉などの正答率が低下し、研究者は風化が確実に進行していると▼辞書で、出来事の強い印象や記憶が薄れていくことなどを風化と呼んでいます。ただ第1原発事故は一過性のものでなく、12年以上たってなお現在進行形です▼溶け落ちた核燃料の取り出しの見通しは立っておらず、漁民の反対の声を無視し代替案をまともに検討せず海洋放出を強行し、故郷を追われ帰ることができない人々の苦難は今も…。関礼子・立教大学教授が近編著で指摘します。「福島原発事故を忘れることは、被害を放置したまま問題を風化させることにつながるだろう」(『福島原発事故は人びとに何をもたらしたのか』)▼風化させない取り組みもさまざまありますが、事故を風化させたい一番は、老朽原発の酷使や新増設の推進、原子力産業救済の原発回帰へ舵(かじ)を切った政府自身ではないか。

(「しんぶん赤旗」2023年11月18日より転載)