日本学術会議の分科会はこのほど、原発事故時の放射性物質の拡散から国民の安全を守るため、避難についてモニタリングデータに基づく判断だけでなく、放射性物質の拡散予測を積極的に活用し、原子力災害対策指針の改訂などを求める見解をまとめました。
見解は、学術会議の地球惑星科学委員会地球惑星科学社会貢献分科会が9月26日に公表したもの。
原子力規制委員会は16年、大気中の放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI、スピーディ)」について、原子力災害が発生した時の避難の判断には利用しない方針を確認。予測に基づきプルーム(放射能雲)の方向を示すことは、「かえって避難行動を混乱させ、被ばくの危険性を増大させる」などとする考えを示しました。
これに対し見解は、事故以降の12年間に予測の信頼性が向上したと述べ、東京電力福島第1原発事故直後にスピーディが活用されなかったのは「拡散予測情報を実際の防護措置に活(い)かすプロセスに欠陥があった」と指摘。避難の判断をモニタリングデータのみに依存する防護策には限界とリスクがあり、国内の防護策は「国際比較からも奇異に映る」としました。
また、政府の原子力関係閣僚会議がその後、全国知事会の要望を受けて、自治体の判断でスピーディを活用することは妨げないと決定しており、「規制委が地方公共団体および国民に対して担うべき責任を結果的に果たすことができないという異常な事態が放置されたままになっている」と強調しています。
見解は「原発の長期再稼働や新設という政策転換が示された現在」、拡散予測の活用など「原子力災害対策をより強靱(きょうじん)にするための見直しが喫緊に必要」としています。
(「しんぶん赤旗」2023年10月11日より転載)