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原発回帰の大転換「GX法案」 福島の教訓忘れたのか

運転期間が46年を超える老朽原発、関西電力美浜3号機(右)(福井県美浜町)

 60年を超えて老朽原発を動かし続けることを認め、原発の活用を「国の責務」と明記するなど原発回帰に大転換する「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」の国会審議が始まりました。同法案は、原子炉等規制法や原子力基本法など五つの法律の改定案を一本化した「束ね法案」です。日本共産党は、原発回帰の撤回と「原発ゼロ」を決断するよう求めています。法案の問題点をみました。(「原発」取材班)

60年超運転を可能に

 同電源法案は、岸田文雄政権が2月に閣議決定した、原発の「最大限活用」を掲げる「GX実現に向けた基本方針」に基づくもの。基本方針は、「原発の依存度は低減する」「新増設は想定していない」という政府自身の従来方針を投げ捨て、財界や産業界の要求を丸のみし、原発の60年超運転を認め、新増設の推進などを決めました。

 原子炉等規制法(炉規法)の改定案は、「原則40年、最大60年」という運転期間を制限する規定を同法から削除し、電気事業法に移します。

 同規定は東京電力福島第1原発事故の教訓を踏まえ、長期間経過した原発の設備や機器の「劣化による安全上のリスク(危険)を低減する」ために設けられたものです。

 規定を原子力規制委員会の所管から原発の推進官庁である経済産業省所管の法律に移すことは、事故の教訓である「規制と推進の分離」に反します。

 しかも、電気事業法の改定案は、規制委の審査などによる停止期間を運転期間としてカウントせず、実質60年を超えての運転を可能にします。安全上のリスクはさらに高まります。

 60年超運転を可能にする法制度への対応に、規制委の石渡明委員は「運転期間を法律(炉規法)から落とすことになる。安全側への改変とは言えない」と述べ、反対を表明しています。

原子力産業へ優遇策

 原子力基本法の改定案の中身も重大です。基本法に「国は、エネルギー源としての原子力利用に当たっては、原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用する」の項目を追加。利用促進などに資するよう国は「必要な措置を講ずる責務を負う」と明記しました。

 これは、原発の新増設など将来にわたって原発を活用するための枠組みです。

 その上で、国が講ずる「基本的施策」として、▽原発活用のための人材の育成・確保▽技術の維持・開発のための産業基盤の整備・強化▽研究・開発の推進と実用化▽電気事業の改革が行われても原発事業者が安定的に事業できる環境整備―など、原子力産業を優遇する施策を列挙しています。

質問する笠井亮議員=3月30日、衆院本会議

 また、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し再び原発で使う「核燃料サイクル政策」が完全に破たんしているもとで、再処理の「着実な実施」の施策や、「核のごみ」の最終処分について「円滑かつ着実な実施」のための施策を盛り込んでいます。

「原発ゼロを」 笠井氏

衆院本会議

 日本共産党の笠井亮議員は、法案が審議入りした衆院本会議(3月30日)で、同法案について「事故の反省も教訓も投げ捨て、国民の生命と財産、日本の経済と社会を危険にさらす道」だと批判。「原発ゼロに踏み出すことこそ『国の責務』ではありませんか」と述べ、原発回帰を撤回し、「原発ゼロ」の決断を強く求めました。

原発利用永久化狙う

龍谷大学教授 大島堅一さん

 原子力基本法は、原子力利用の原則を定めた法律ですが、改定案は原子力発電の利用をなにがあっても永久化させる法律に変えようとしています。

 一つは、原子力発電が非常に危険なものであって、人類社会と相いれないことを無視しているという問題があります。もう一つは、原子力発電を持たない電力事業者に対して、著しく不公平な措置を国が取るとしている問題です。

 具体的には、電気事業でどんな改革が行われても、原子力産業を維持するために国が事業環境整備するといっています。事業環境整備とは、補助金やさまざまな形で優遇策を実施することを意味する政策用語。衰退する原発事業への国民負担が増加する恐れがあります。

 電力自由化が進めば、原子力はコストが高いので競争市場では生き残れません。しかし、国が優遇策を取ることで原子力発電を持っている事業者が有利になります。原子力事業が特別扱いされる。改定案は、著しく不公平なことを国がやると書いてあるのです。

 ほかにも再処理をこれからも続けるための施策、最終処分に向けて国民の理解を促進するための施策を行うなど、国や原子力事業者の責務が非常に具体的に書かれています。今までの原子力基本法の性格を大きく変えて“原子力開発推進法”にしようとしています。

 基本法にこのようなことが書き込まれれば、法の改正がない限り、これらを国がやるということになります。もはや政策が正しいかどうかは、議論すらされなくなるのです。

(「しんぶん赤旗」2023年4月10日より転載)