「原発に頼らない。自家発電所ができたらいいなぁ」。福島市でモモとリンゴを生産している果樹農家の橋本光子さん(57)は、東京電力福島第1原発事故で価格の暴落に苦しんでいます。
「農協に出荷すると以前の価格の3分の1。ようやく半値まで戻りましたが、贈答用の顧客が激減しました」と原発事故から2年半以上すぎても放射能の風評被害に悩まされています。
東日本大震災が起きた3月11日、橋本さんは郡山市にいました。急いで戻りましたが、家にたどり着いたのは夜7時すぎ。蔵が倒れていました。家族総出の後片付けには2日かかりました。
「孫を外に出さないようにとお守り役でした」と橋本さんは言います。娘と孫は山形県に避難。昨年(2012年)9月まで避難生活をしていました。
生産意欲を奪う
放射能被害は夫の生産意欲を奪いました。モモとリンゴを約2町歩(約2ヘクタール)作っていましたが、リンゴの木を3反歩(約0・3ヘクタール)ほど切り倒しました。「手のまわる範囲で続けよう」と減反しました。「インターネット販売を始めて、お客は右肩上がりで増えていた矢先の原発事故でした。風評被害でどうしてもお客は戻りません」と嘆きます。
橋本さんはモモを完熟させて客に直接出荷してきました。「コクがあり、甘みが濃い。贈答用として喜ばれてきました。それが原発事故で半分に減りました。その分農協への一括出荷が増えました。そのために東京の市場にでるのが1日遅れる。遅れただけ品質が落ちて安くなるのです」
橋本さん宅では、二十数年前から屋根にソーラーパネルを取り付けて自家発電をしてきました。大震災のときに1週間停電しましたが自家発電で復旧。「隣近所の人たちが携帯電話の『充電のために使わせてほしい』とやってきました」といいます。こうした体験から「原発ゼロにしないといけない」という考えが強まりました。
空いている土地を活用し、ソーラーパネルによる太陽光発電所を作れないかと考えました。
福島県北農民連が伊達市霊山(りょうぜん)町に太陽光発電所を設置したことに触発されて、橋本さんは、果樹生産を続けながら原発に依存しないで再生可能な自然エネルギーの発電に貢献できればと考えています。
生業訴訟の原告
原発の再稼働や海外輸出の安倍内閣の暴走に「福島で暮らしてみたらどんなに安全と安心が脅かされていることが実感できます。暮らしていないから『(原発は)コントロールされている』などと言える。日本の代表にふさわしくない」と批判します。
国と東京電力に原状回復を求めた生業(なりわい)訴訟の原告に「真っ先に加わりました」。
橋本さんは言います。「元に戻させるためには国にも責任を取ってもらわないとだめです。孫たちが安心して生活できるためには原発事故が起きる前に原状回復させるのが大切なのです。原発事故の人災に苦しめられ、その上消費税増税で窮地に追い込まれます。消費税増税は絶対に反対です」
(菅野尚夫)