自然エネルギー研究センター長 大友詔雄さん
原発の新増設、再稼働に向けた政府の動きが急です。理由の一つが「脱炭素」。しかし、原発はCO2を出さないと言えるのでしょうか。自然エネルギー研究センター(札幌市)の大友詔雄(のりお)センター長から、米の研究論文の紹介を受けました。
この研究論文は、米スタンフォード大学のヤコブソン教授(環境工学)が2008年に発表した26ページの労作です。
九つの電力源(太陽光、集光型太陽熱、風力、地熱、水力、波力、潮力、原子力、石炭火力[炭素回収・貯留=CCS])について、問題点と解決策を数値モデルを使って詳細に検討しています。発表後、11年に東京電力福島第1原発事故が発生。今、ロシアがウクライナの原発を攻撃し、岸田首相が原発推進に舵を切るなかで、改めて意義ある研究となっています。
注目されるのが、「気候変動に関わる排出量への影響」の章。電力源ごとにCO2に換算した排出量(CO2e)を一覧表にしています。CO2の直接的な排出にとどまらず、間接的な排出量を算出しているのが特徴です。燃料採掘、輸送、発電設備の建設、運転なども化石燃料を使い、CO2を排出するからです。
表にある「ライフサイクル」排出は、各発電設備の建設から廃棄までの排出量です。風力、太陽光などの自然エネルギーは燃料採掘や輸送は必要なく、CO2は「設備の建設、設置、メンテナンス、廃炉の間だけ発生」します。石炭火力、原子力は「燃料の採掘と製造の際に追加的な排出が発生」します。
「発電所建設遅滞」排出は、建設の遅れにともなうCO2換算排出量のこと。「計画から運転までの期間が長いエネルギー技術」は「CO2と大気汚染物質の排出量を増加させ」ます。というのは計画から運転までの間に、石炭火力など、より炭素排出量の多い既存発電を稼働させる必要があるからです。その排出量の最大が原発です。最少は太陽光、風力で、定義上排出ゼロとして各発電技術のCO2eを計算しています。
特筆すべきなのは、同じ章で「核戦争・テロ」による影響を考察していることです。「国家間の限定的な核攻撃やテロリストによる核爆弾の起爆の危険性が高まっている」とウクライナの事態を想定しているかのようです。30年間に核攻撃が起きる確率を前提に、排出量を算定しています。
全体では、原発は石炭火力に次いでCO2を排出します。論文が、クリーンな自然エネルギーは、「当面の間、世界の電力を賄うのに十分な量が存在する」とし、「効率の悪い選択肢(原子力、石炭火力)は、地球温暖化や大気汚染の解決策を遅らせる」と結論付けているのは示唆的です。
(「しんぶん赤旗」2022年10月01日より転載)