
津波対策を怠って福島第1原発事故を防げなかったとして、東京電力の株主らが東電旧経営陣に対して同社への約23兆6000億円の賠償を求めた株主代表訴訟の控訴審判決が6日、東京高裁(木納敏和裁判長)でありました。木納裁判長は、旧経営陣4人に13兆3210億円の賠償を命じた一審判決を取り消し、原告側の請求を棄却しました。
「原発に津波」予見を否定
一審東京地裁は2022年7月、勝俣恒久元会長=24年10月死去=、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務の過失を認め、元常務以外に賠償を命じました。旧役員4人と原告双方が控訴していました。
判決は、被告らの過失を認定するためには、津波対策を速やかに講じるよう指示する必要があると認識できるほどに「具体性」のある予見可能性が必要と主張。国の機関が行った地震予測「長期評価」の見解について、福島第1原発の運転停止の指示を法的に義務付ける程度に「具体的」な予見可能性があったと認める根拠として十分でないなどとして予見可能性を否定しました。
また、武藤元副社長が、津波の襲来について「切迫感ないし現実感を抱かせるものではなかった」ことから、長期評価の見解についてその信頼性を専門家に確認しようとしたことについて、「不合理であったと断ずることはできない」と判断。一方、一審判決で「著しく不合理」と見解が示されるまでの間に津波対策を講じなかったことについて、控訴審判決では触れていません。またその他4人については、武藤被告以上に多くの情報を得ていたとは認められないとし、5人全員に対して賠償責任は認められないとしました。
法廷では「おかしい」などの声が何度も上がり、木納裁判長が判決を読み終わると「恥を知れ」と叫ぶ声があがりました。
「論理的に矛盾」
旧経営陣に13兆円超の賠償を命じた一審判決を取り消した6日の東京高裁判決。閉廷後、高裁前では原告の株主側が「不当判決」の旗を掲げると、集まった支援者から「支離滅裂」などの声が上がりました。
原告の一人、木村結さんは「怒りに震えている。あの過酷事故を起こした原子力事業者の取締役の誰一人、責任がなかったと。許せない思い」と述べ、「上告することを決めている。たたかいはまだまだ続く」と語りました。
原告側代理人の河合弘之弁護士は「残念な判決になった。しかし、非常に不当で論理的に矛盾している」と指摘。
河合氏は、争点になった津波の予見可能性について高裁判決が、危険性の切迫感、現実感を抱いたものと認めないなどと判断したことを地震学の基本を知らない判決だと述べました。また、一審判決で指摘された、旧経営陣が建屋の水密化などの対策を講じることを指示しなかった不作為にも言及せず「根本的な欠陥がある」と批判。河合氏は「原発重大事故を許す判決だ」と強調しました。
「次の重大事準備」
東京高裁判決が出た6日、株主代表訴訟原告団は東京都内で報告集会を開き、原告弁護団による声明を発表しました。
声明では、判決が原発事故を引き起こすような津波襲来の予見可能性について、東電の経営者に切迫感を抱かせることまで要求していると批判。「具体的な危険が切迫していない限り安全対策をしないという甘い経営判断を広く容認するもの」として、この判決は次の重大事故を準備するものと強く抗議。最高裁に上告する方針を示しています。
(「しんぶん赤旗」2025年6月7日より転載)