原子力規制委員会が発足して9月で10年になりました。規制委は、東京電力福島第1原発事故を教訓に、原発推進政策や原発業界に迎合することなく厳格な規制行政を担うことを期して設立されました。岸田文雄首相は、原発再稼働促進とともに新増設を公言し始めました。国民の生命と健康に責任を持つべき規制行政が、再び原発推進の圧力に屈することがあってはなりません。
規制の独立は痛苦の教訓
国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会は2012年、原発事業を所管する経済産業省の一組織である原子力安全・保安院が規制対象である事業者の虜(とりこ)となり、原子力安全の監視・監督機能が崩壊していたことが、事故の根源的原因だと断じました。新しい規制組織には、原発推進行政や事業者からの独立性、意思決定の透明性、専門能力と職務への責任感が必要だと提言しました。
原子力規制委員会は、こうした提言を受けて、「福島第一原子力発電所の事故の深い反省に立ち」(設置法案の提案理由説明)、独立性の高い行政組織として12年9月19日に発足しました。
規制委が13年に制定した規制基準は、欧州などで導入されたコアキャッチャー(溶融炉心を受け止めて冷やす装置)や格納容器の二重化などの基準や、米国で実施している避難計画なしには稼働できないという基準を棚上げしました。既設原発だけを対象に「シビアアクシデント(過酷事故)対策をするための基準」(9月25日に規制委委員長を退任した更田豊志氏、「毎日」同月16日付)だからです。
欠陥のある規制基準で審査対象の原発27基のうち17基を合格(再稼働は10基)させたことは重大です。一方、その規制基準の下でも地震・津波想定の見直しが必須となり、地質調査のやり直しなど審査が長期化することも珍しくありません。一部の原発では原子炉建屋直下に活断層があるとされ、電力会社が追加の地質調査を行い、規制委も結論を先送りするなど、審査がさらに長引いています。
ロシアによるウクライナ侵略や電力需給ひっ迫などを背景に、自民党は、原発再稼働の加速だけでなく、審査の効率化や運転期間の延長など規制行政の中身に立ち入った要求を繰り返しています。電力各社も社長自ら規制委との意見交換に臨み、審査の効率化を要求しています。
岸田首相は4月の民放番組で「(規制委の)審査の合理化、効率化」が必要だと主張しました。8月のエネルギー政策をめぐる政府の会議では、原発再稼働に向け国が前面に立つと表明し、関係者の総力結集や、運転期間の延長、「次世代革新炉」の開発・建設などの検討の加速を指示しました。経団連も7月の「夏季フォーラム行動宣言」で、再稼働と運転期間の延長、「革新炉」を視野に入れた新増設を提起しています。
政府は「ゼロ」の決断を
政財界の原発推進、審査効率化の大合唱が強まる中、規制委には、推進論に迎合することなく、規制行政の独立性を堅持することが厳しく求められています。
岸田政権が規制委に原発推進の圧力をかけることは許されません。福島原発事故の被害の甚大さを踏まえれば、原発推進ではなく原発ゼロこそ決断すべきです。
(「しんぶん赤旗」2022年10月03日より転載)