きょうの潮流

 東京電力福島第1原発事故で1~3号機は炉心溶融し、核燃料が原子炉圧力容器の底を抜けて格納容器内に溶け落ちました。それから11年半が経過。溶融した燃料(デブリ)に今も水をかけて冷やしており、地下水や雨水と混ざり、放射能汚染水が増えています▼東電は先月、2号機で年内に予定していたデブリの取り出しを来年度後半に延期しました。取り出しは試験的なものでわずか数グラム。デブリは3基で計880トンという推計もあり、どうやって取り出すかの見通しはありません▼3号機のデブリを取り出すため、原子炉建屋全体を囲って建屋ごと冠水させる方式を検討していることも今月、明かされました。どの方法を取ってもデブリを取り出す作業で水質が悪化する可能性があるといい、事故の収束・廃炉作業の困難さはいかばかりか▼ところが、岸田首相は政府の会議で、原発の再稼働に向け「あらゆる対応をとる」といい、原発の新増設や運転延長の検討を加速するよう求めました。国民の安全は置き去りです▼先日、事故をめぐって住民らが国と東電に損害賠償などを求めた「生業(なりわい)訴訟第2陣」の弁論がありました。第1原発が立地する福島県大熊町から避難した60代の女性がこう訴えました▼「国が原発を認めてやってきたのに、東電にだけ事故の責任を負わせるのは間違っている。11年たったからといって、事故前の生活を忘れて生きていけるものではありません」と。首相の表明は、原発事故など忘れろというに等しい暴挙です。

(「しんぶん赤旗」2022年9月19日より転載)