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2022焦点・論点 東電福島第1原発汚染水対策・・福島大学教授 柴崎直明さん

汚染水(アルプス処理水)の海洋放出のための海底トンネル設置に向け、シールドマシンを使った掘削作業が8月から始まりました(東京電力提供)

先も見えない海洋放出ではなく汚染水の量減らす抜本的対策を

 政府・東京電力は東電福島第1原発事故で発生した放射能汚染水を処理した後の高濃度のトリチウム(3重水素)などを含む汚染水(アルプス処理水)を薄めて海に放出する計画について、多くの批判を無視して進めています。海洋放出ではなく汚染水の抜本的な対策を求めてきた福島大学教授の柴崎直明さんに聞きました。(三木利博)

 ―海底トンネルの設置など東電の放出計画を原子力規制委員会が先月認可し、今月、東電は本体工事を開始しました。

 政府が昨年4月、海洋放出の方針を決定してから、東電は、あとはやるだけだと「放出ありき」で準備を進めてきました。昨年の8月下旬に海底トンネルを掘って沖合1キロ先に放出すると言い出し、ボーリング調査を開始したのが12月でした。その結果が出ないうちに東電は規制委に計画の変更認可申請を出し、福島県などに事前了解願いを提出しました。さらに12月からは、認可が必要ない工事を「環境整備」という名前で、放出前の水槽「放水立坑」の掘削や、1キロ先の放出口の海底のしゅんせつなどを行ってきました。認可され、自治体の事前了解を得るとすぐ、立坑の底に据えた掘削機械シールドマシンを使ってトンネルを掘り始めました。工期を遅らせないことが主目的になって、突っ走っている感じを受けます。

 ―政府・東電は汚染水のタンクが増えて廃炉作業に支障をきたすと海洋放出を正当化しています。

 海洋放出は安易な理由で選択されました。経済産業省の小委員会で多核種除去設備(アルプス)を通した後のいわゆる「処理水」の処分について海洋放出以外の処分案が議論されたこともありましたが、結局、コストが一番安く、通常運転の原発でトリチウム水を放出している例があるからとして、海洋放出が現実的だとしたのです。しかし、アルプスを通してもトリチウム以外に除去できない放射性物質が含まれ、通常運転の場合とは違います。国の基準の濃度より薄めて流すといいますが、公害問題の教訓からも放射性物質の総量規制をすべきです。

 海洋放出の建前は、タンクが来年にはいっぱいになるという理由です。確かに敷地内にはタンクが1000基以上並んでいますが、福島第1原発の敷地の枠内でしか考えていないのが問題です。調査や調整は必要でしょうが、海に流さずに敷地外で安全に保管する場所についてベストを尽くして検討したのでしょうか。

 ―地下水や雨水が建屋に流入し汚染水が増えています。その汚染水を減らす抜本的な対策を先送りにしていると指摘していますね。

 これまでの汚染水対策を振り返ると、建屋の上流側に井戸を掘って地下水をくみ上げる「地下水バイパス」はうまくいかず、地盤を壁状に凍らせる「凍土壁」(陸側遮水壁)を切り札として2018年に完成させましたが、効果は限定的です。当初は流入量をゼロに近づけるといっていたのに。それ以後は地表をモルタルなどで覆うフェーシングや建屋屋根の修理などの雨水対策ばかりしています。

 結局、いまだに汚染水発生量は1日当たり130~150トンで推移しています。このうち建屋への地下水・雨水流入量が主な汚染水発生量の中身となっています。6月上旬は雨が多く、建屋への流入量は1日当たり220~245トン(週平均)もありました。

 今後30年で放出を終えるという政府・東電の計画自体が、日々発生する汚染水量を減らさなければ破たんします。先も見えない。このままでは廃炉作業のあらゆるところにしわ寄せがくるでしょう。

 廃炉に向けた政府・東電の「中長期ロードマップ」では、策定から10年たっても廃炉まで「30~40年後」は変わらず、敷地を更地にするのかどうかさえ明らかにしていません。原子力政策を進めて事故を起こした責任をどう取って、後始末をどうするのか。国や東電には覚悟がないのではないかと言わざるを得ません。

 ―柴崎さんらの研究グループは汚染水の発生量を減らす対策を提案しています。

 政府・東電の問題点は、原発敷地の地質や地下水の実態把握が不十分なまま、甘い見通しで、日々発生する汚染水の量を抜本的に減らすという根本問題に手をつけてこなかったことです。

 私たち(地学団体研究会の有志でつくる福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ=原発団研)は地下水流入を止めるため、10年程度の中期的な対策として、地下水をくみ上げて地下水位を管理するサブドレン(井戸)を増強すること、100年程度を見越した長期的な対策として、凍土壁より広く、長さ3・7キロを囲む広域遮水壁の設置と、地すべり対策で使われてきた集水井(しゅうすいせい)を組み合わせるという提案をしています。どれも在来工法で実績があります。重要なことは対象地域だけでなく周辺地域も含めて地質や地下水の実態をしっかり調査することです。

 早く汚染水発生量をゼロに近づけてこそ、廃炉作業が進むと考えています。海洋放出の必要もなくなります。

 しばさき・なおあき 1960年生まれ。専門は地下水盆管理学・水文地質学・応用地質学。国際航業(株)地質調査事業部の主任技師、インド国立地球物理学研究所客員研究員などを務め、現在、福島大学共生システム理工学類教授。福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会専門委員。編著に『福島第一原子力発電所の地質・地下水問題―原発事故後10年の現状と課題―』

(「しんぶん赤旗」2022年8月19日より転載)