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東電株主代表訴訟 地裁判決の意義(下) 「万が一」への安全性

原発事故の責任が問われた裁判

 津波対策を取っていれば深刻な事故を回避できたのか、結果回避の可能性についても、裁判によって結論が分かれています。前提に、どのような対策がありえたのかについて考えが異なるからです。

最高裁判決覆す

 今回の株主代表訴訟の判決では、土木学会に検討を依頼し、その間に過酷事故を防ぐため最低限必要な津波対策を指示した場合に速やかに実施可能な対策について検討。建屋等の水密化を容易に着想して実施し得たと評価しています。さらにそれらの措置が講じられた場合には「重大事故に至ることを避けられた可能性は十分にあった」としています。

 一方、最高裁判決の多数意見は、経済産業相の指示があった場合の津波対策は、試算津波を前提とした防潮堤等の設置の可能性が高いとし、水密化などの他の対策があわせて取られた可能性や必要性を否定。実際起きた津波が敷地東側で試算津波を上回っていることから、敷地の浸水を防げず、同様の事故が発生した「可能性が相当にある」としています。

 最高裁判決の「反対意見」は、安全上の余裕を考慮した想定が必要と指摘し、東側からも津波が遡上(そじょう)しないよう、適切な防潮堤等が設置された可能性が高いとしています。さらに、多重防護などの必要性を指摘し、経産相の指示があった場合、東電は速やかに「水密化等の措置を講ずる必要があった」としています。これらの対策を取っていれば事故を「回避できた可能性が高い」との結論を出しています。

 刑事裁判の東京地裁判決は、事故を回避するには「運転停止措置を講じることに尽きる」と断定し、運転停止は「相当に困難」などと一方的に判断しています。

 会見で、株主代表訴訟の弁護団の河合弘之弁護士は、水密化技術の評価に関して6月の最高裁判決が事実に反するとして、今回の判決を「最高裁判決を根底から覆す判決」と評価します。

刑事裁判と違い

 今回の判決は、過酷事故が生じた場合には「わが国そのものの崩壊にもつながりかねない」と指摘しました。

 最高裁判決の「反対意見」は「生存を基礎とする人格権は憲法が保障する最も重要な価値」と指摘し、経済的利益や一般的利益を理由に「必要な措置を講じないことが正当化されるものではない」と述べています。

 いずれも原子力災害の被害を重く受け止め、原子力による深刻な災害を「万が一にも」起こさないよう安全性の確保を強調しています。

 刑事裁判判決が「(事故前)原子力施設の自然災害に対する安全性は、放射性物質が外部の環境に放出されることは絶対にないといったレベルの、極めて高度の安全性をいうものではない」などとしている点と対照的です。

 (おわり)

 (松沼環)

(「しんぶん赤旗」2022年7月20日より転載)