東京電力福島第1原発事故をめぐって東電旧経営陣に東電への賠償を求めた株主代表訴訟で、東京地裁は13日、旧経営陣4人に対し、東電に13兆円という巨額の賠償を求める判決を言い渡しました。6月に最高裁で、国の賠償責任を免罪する判決が出たばかり。今回の判決について、原発被害者訴訟原告団全国連絡会に参加するいわき市民訴訟団長の伊東達也さんは「各地でたたかわれている裁判で、国の責任を認めさせることにつながる判決だ」と語りました。
長期評価が焦点
株主代表訴訟の主な争点は、敷地を上回る津波の襲来を予測しえたか、対策を取れば被害は防げたかでした。
国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測「長期評価」に基づいて、東電は08年、1~4号機主要建屋の敷地高さ(10メートル)を超える約15・7メートルの津波の試算結果を得ます。元副社長の武藤栄氏は同年6、7月、東電内の担当部門から試算結果に基づいた津波対策の必要性について説明を受けました。しかし、長期評価の取り扱いについて土木学会に検討を依頼すると決定し、対策を先送りにします。
判決は、長期評価について、まとめられた議論の過程などから、相応の科学的信頼性を有する知見と評価。試算結果を前提とした津波対策工事に着手することが必要であり、可能であったとしています。
放置は「不合理」
武藤氏が、土木学会に検討を委託したことについて「一定の合理性」を認めた一方、その間に何らの津波対策に着手することなく放置する判断は、「著しく不合理であって許されるものではない」としています。その上で、被告らが相当の期間を要する土木学会の検討を依頼している間、過酷事故が生じないための最低限の津波対策を速やかに実施するよう指示等をしなかったことを怠慢と認定。東電が得た津波計算結果を規制当局に明らかにしないなど被告らの判断や対応について、「安全意識や責任感が、根本的に欠如していたものと言わざるを得ない」と批判しています。
6月の最高裁判決の「多数意見」は、長期評価の信頼性について明示していませんが、長期評価に基づく試算については「合理性を有する試算」としています。また、同最高裁判決の「反対意見」では長期評価について「基本的な信頼性が担保されたもの」と評価しています。
一方、旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判の東京地裁判決(19年)は、長期評価の信頼性について「合理的な疑いが残る」と否定し、3人を無罪としました。(つづく)
(「しんぶん赤旗」2022年7月19日より転載)