東京電力福島第1原発事故をめぐり福島県から群馬県に避難した住民ら91人が国と東電に総額約4億5000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(足立哲裁判長)は1月21日、国と東電双方の責任を認めた一審前橋地裁判決のうち、国の責任を認めた部分を取り消しました。その上で東電に対して、原告90人に計約1億1970万円を支払うよう命じました。原告らは「不当判決」「絶対に受け入れられない」と批判しました。
同様の集団訴訟で国も被告とした控訴審判決で国の責任を初めて認めた「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の仙台高裁判決(昨年9月)と判断が分かれました。
事故の原因となった福島第1原発の敷地を超える津波について足立裁判長は、国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した、三陸沖から房総沖にかけての地震予測「長期評価」の知見には「異論があった」などとして、長期評価によって津波の発生を予見することができたとはいえないと判断。長期評価に従って防潮堤設置や水密化措置の対策を講じても「事故の発生を回避することはできなかった」として、国が東電に規制権限を行使しなかったことは「違法とはいえない」と結論づけました。
一方、避難指示によらずに避難した場合も避難の選択が一般人の感覚に照らして合理的であると評価できる場合には、避難の合理性が認められると指摘。慰謝料額の算定に際し、個々の原告らについて従前の生活状況、避難や避難生活の状況などの事情を考慮して算定するのが相当としました。2017年の一審判決は国と東電に計3855万円の賠償を命じていました。
権力に迎合し忖度 怒りの声
国の責任を認めなかった東京高裁の判決後の報告集会などで、怒りの声が次つぎと上がりました。
原告の丹治杉江さん(64)は「この10年、原発のことを考えなかった日はありませんでした。生業(なりわい)訴訟と同じ損害なのになぜ判断が違うのか。生きてゆくのがいやになるほど落胆しました。被災区域で損害を分けることも理不尽で納得できません」と最高裁に上告する決意を述べました。
原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員の伊東達也さんは「万が一にも事故を起こしてはならず、司法は厳しく国と東電の責任を追及しなければならない。それなのに国民の常識からかけ離れた判決。『3・11』前のように国におもんばかった構図が見えている」と批判しました。
千葉訴訟原告の瀬尾誠さんは「結論ありきの判決」と語り、渋川・北群馬原発をなくす会の今野義雄事務局長は「世論を盛り上げて、裁判所を包囲して、原発がなくなるまで頑張ります」と述べました。
中島孝・生業訴訟原告団長は「権力に迎合して忖度(そんたく)した判決。情けない。国民の苦しみが広がるばかりで、国政の変革しかない」と語りました。
(「しんぶん赤旗」2021年1月22日より転載)