復興犠牲の廃炉 本末転倒
流通網ボロボロ
―報告書は、環境への放出が遅ければ遅いほど風評被害が少ないと指摘していますね。
関谷直也・東京大学准教授 不安が最も大きかったのは事故直後です。実際の汚染もあり、安全性が確認された食品についても消費者の不安は大きく、流通業者も福島県産を避ける対応をとり流通網はボロボロになりました。
少しずつ風評は減っていきます。20年、30年と時間がたてば解決していくはずです。まずは「漁業」が産業として体力を回復することが重要です。福島の魚の水揚げ量は、まだ震災前の15%ほどしか戻っていません。コロナ禍で魚の消費や売り上げも落ちています。生産者にさらに負荷がかかっている状態です。
福島の漁業は、出荷制限魚種もなくなり、試験操業から本格操業への“芽”がみえてきた段階です。あとは、どれだけ水揚げ量を増やして、流通ルートを元に戻すのか。少しずつ流通業者も増えて、後継者も入ってくる。漁業の流通網を立て直す重要な時期です。ここで産地として傷がつくことになれば、人的・産業的な投資は行われず、他の地域と比べて更なるハンディキャップを背負うことになります。
まだ端緒の段階
―問題解決にむけての課題は?
関谷 私は、処理水はいずれ処分しなければならないと考えています。
しかし漁業の再生を考えたとき、今は時期が悪すぎます。廃炉を進めるために、復興が犠牲になる、地元の漁業者や流通業者が犠牲になるというのは本末転倒です。まずは条件を整えることが先です。
流通回復の要諦は、水揚げ量を増やして安定供給できるかです。それが回復してから処理水を考えようという議論なら理解できます。漁業者の“体力”があれば風評被害を吸収できますが、まだ復興の端緒についた段階です。
風評は、人間の心理や流通、社会の問題ですから、説明、納得感などがポイントです。
報告書は「処分のタイミング、処分期間と処分量、地元の事業者の経済的状況、社会心理的な状況などのバランスを考えて決定することが重要」と強調しました。それを踏まえて議論すべきです。(おわり)
(「しんぶん赤旗」2020年12月12日より転載)