多い反対意見 踏まえよ
東京電力福島第1原発事故で発生する放射性物質トリチウム(3重水素)を含む「処理水」。政府は10月、薄めて海に流す方針の決定を見送りましたが、早期決定の姿勢は変えていません。海洋放出と大気放出を「現実的な選択肢」とする一方、風評被害など社会的影響を懸念する報告書を2月に公表した政府の小委員会に、風評の専門家として参加した関谷直也・東京大学准教授(災害情報論・社会心理学)に聞きました。(中村秀生)
議論の土壌ない
―報告書は、幅広い関係者の意見を丁寧に聴いて方針を決めるよう政府に求めました。公表後10カ月の状況をどうみますか?
関谷 「ご意見を伺う場」では、業界団体の代表だけでなく、地元や若い人など、より多くの立場の方の話を聴くべきでした。コロナ禍とはいえ意見の吸い上げは不十分でした。パブリックコメント(意見公募)も合わせ、海洋放出への反対意見が多いことを、きちんと踏まえるべきだと思います。
この10カ月間、そもそもトリチウムについての十分な理解も進んでおらず、議論する土壌ができていません。
具体的に示して
―海洋放出すれば現在の風評被害が上乗せされると、漁業者などは心配しています。
関谷 風評対策は10年前から続けられています。追加でできる対策は限定的ですが、できるなら今やるべきです。この9カ月、近隣諸国への情報発信も流通の対策も進んでいません。「処理水を処分するために今後やります」と言われても、できるとは思えません。まずは具体的に風評対策を示すべきです。「ご意見を伺う場」でも風評対策が見えないことへの懸念が多く出されたのですから、それについて、道筋をつけるべきです。
他に、できることは賠償ですが、事故以降の賠償の枠組みでいいのか、宮城、茨城など影響を与えうる近県への対応はどうするか、議論は深まっていません。(つづく)
(「しんぶん赤旗」2020年12月11日より転載)