菅義偉首相が所信表明で、温暖化ガスの排出量を「2050年に実質ゼロ」にするとのべましたが、その中身は原発の新・増設頼み。温暖化ガスを大量排出する石炭火力も、新設を含め進める構えです。再生可能エネルギー(再エネ)の普及をすすめる環境団体は、30年までの原発・石炭火力の早期廃止を強く求めています。(徳永慎二)
環境NGOのFoEジャパンは所信表明当日の10月26日、「日本政府は2050年『排出ゼロ』に向けた取り組みの加速を」と題する声明を発表しました。声明は50年排出ゼロ達成(実質ゼロよりさらに厳しく)のためにも、「脱原子力・脱石炭火力で30年目標の大幅引き上げ」を主張。政府の抜本的な方針転換を求めています。
業界中心でなく市民参加の政策
原発は「リスクと被害が大きく、コストも不確実性も高い」として、早期の廃止を要求。石炭火力について、いまだに新規建設を進める日本の対策の早急な見直しを求めています。OECD諸国での石炭火力廃止の動きも指摘。「日本もそうすべきだ」としています。
菅首相が言明した排出量「実質ゼロ」についてさまざまな「抜け穴」を使って、多くの温暖化ガス排出を許してしまう可能性を指摘。「排出自体をゼロ」とするよう求めています。
声明は160以上の自治体が「ゼロカーボン(炭素)宣言」をしていることなどを示し、産業界中心ではなく市民参加の政策づくりを掲げています。
一方、多くの環境団体でつくる「eシフト」(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)は10月15日、原子力市民委員会と共催して、「衝撃の容量市場結果―再エネ新電力は生き残れるか」と題するオンラインセミナーを開きました。
同セミナーで「気候の安定化と石炭火力30年全廃」と題して報告したのは気候ネットワーク東京事務所長の桃井貴子さんです。
世界の平均気温の上昇を1・5度に抑えることをうたったパリ協定の目標達成のためには「この10年の取り組みが極めて重要」だと強調。OECD諸国が30年までの石炭火力全廃をかかげ、フランスが22年、英国が24年に全廃の方針を打ち出しています。(表)
地域間の融通で供給不足は解消
「ところが、日本は石炭火力を次々に建設し、現在過去最大の設備容量になっています」と桃井さん。6月には竹原石炭火力(広島県)、7月には鹿島石炭火力(茨城県)が営業運転を始めました。日本政府は「高効率」と称して石炭火力発電を推進しています。(グラフ)
「加えて容量市場は電力会社にとって石炭火力をできるだけ長く保有しようという誘因になっている」といいます。桃井さんは容量市場のオークション結果を分析。4200億円以上のお金(容量確保契約金)が石炭火力に流れるという試算を示しました。政府は「非効率石炭火力の段階的廃止」を打ち出していますが、オークション結果は「同方針とも矛盾する」と指摘しました。
「常に過大となる電力需要想定」と題して報告したのは、東北大学環境科学研究科教授の明日香壽川(じゅせん)さんです。
将来の電力不足を前提にした官製の容量市場に関連して「本当に電力は足りないのか」と問題提起。30年に石炭火力ゼロ、原発ゼロとした場合の電力需要を試算しました。その結果、北陸、四国を除いて電気は余ることがわかりました。
足りないとされた北陸、四国でも地域間の電気の融通で「問題ない」という結果でした。地域間連携のほかにも電力の供給力不足に対する選択肢はたくさんあると指摘。「最小の国民負担を考えた場合、地域、季節、特定の時間帯でどう対応するか考えた方がより効率的」だとして、国民的な議論を促しました。
(「しんぶん赤旗」2020年11月11日より転載)