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福島原発生業訴訟 高裁判決を前に 原告座談会(下) 被害者の完全救済を

 ―今後の決意を話してください。

 鈴木雅貴弁護士 避難区域外の住民たちが賠償の増額を求めてADR(裁判外紛争解決手続き)で解決しようとしても、東電はADRの和解案を拒否するケースが発生しています。

 服部崇・県北農民連事務局長 原発は日本中にあるわけです。おとなの責任として子や孫のためにも危険な原発を残しておくわけにはいかないのです。

 中島孝原告団長 事故からまもなく10年になります。最近は、福島原発事故のことが報道されることが少なくなりました。「(訴訟は)終わったのか」と聞かれることもあります。被害者の「声なき声」をどうするのかが問われています。

 阿部一枝原告 正念場ですね。

 鈴木 勝利判決を力に、被害者全体の救済につなげたい。全国で30ほどある同種の訴訟で、生業訴訟は3627人と原告数最大の訴訟です。結果は後続する訴訟に大きな影響を与えます。

責任を問う

 中島 私たちは賠償のお金だけでなく原状回復を旗印にたたかう原告団です。一貫して、国の責任の追及を中心に置いていることも特徴です。

 服部 国の責任を正面から問わなければ、事故は繰り返されます。原発ゼロへ向けた議論の出発点になればいいと思う。

 阿部 ドイツに行く機会がありました。ドイツは、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発の事故で大きな衝撃を受けました。メルケル首相は当初の計画で稼働停止時期にきていた古い原発7基の即時3カ月間停止と全原発の徹底的な安全検査を命じました。

 中島 ドイツから原告団に招待があり、私も行きました。ドイツは、再生可能エネルギーを早急に拡充し、省エネルギーを強力に推進していくことを確認しました。ところが肝心の日本政府は事故から何も学ぼうとしていません。被害者は空前の苦難の人生を背負わされることになっています。政府は薬害や公害を繰り返し起こし反省がなく、被害に対する恐れがないのです。これを変えないとだめです。

 ―控訴審でどんなことが問われていますか。

 鈴木 被告の国は、福島第1原発の敷地の高さを超える巨大津波の来襲を予見できなかったと主張しています。また予見できたとしても事故を回避することはできなかった、津波は想定以上だったと。原告が受けた損害については賠償範囲を示した国の「中間指針」で足りるとして、被害を過小評価している。

 原告は控訴審で15人が被害実態などについて証言しました。さらに裁判所が事実上の「現地検証」をしました。裁判所が法廷を出て帰還困難区域などの現場を訪問し、被害状況を自らの目、耳、鼻などの五感で感じて、被害の深刻さを体感してもらいました。

 渡部保子原告 私たちには普通に暮らせる生活があったのに、たたかわなければならない事態に追い込まれました。でもいろんな人と巡り合い、頑張れることが分かりました。

仲間広がる

 中島 仲間が全国に広がりました。

 渡部 そうです。公害総行動にも参加しました。東京大気汚染訴訟の原告らが遺影をもってアピールしていました。東京都内の住民が、国、東京都、日本道路公団(当時)、自動車メーカーに対して、排ガスによる大気汚染を原因とする健康被害に対する損害賠償を求めています。この人たちから学びました。連帯して頑張ろうと思いました。

 服部 たたかう仲間が増えて「原発ノー」とずっと言える勇気がわきました。夢は全ての原発を廃炉にすること、目標は原発を世界からなくすことです。

 鈴木 すべての被害者に希望になる判決を勝ち取りたい。

 中島 国と大企業に対しクサビを打つ判決にしたい。原発事故被害者の完全救済の法制度と被害の根絶をめざします。(おわり)

(「しんぶん赤旗」2020年9月23日より転載)