きょうの潮流

 東日本大震災の津波と原発事故で大きな被害を受けた福島県浪江町(なみえまち)の請戸(うけど)漁港の魚市場が再開されました。約9年ぶりに競りが行われ、漁師や仲買人の威勢のいい声が響いたといいます▼東京電力福島第1原発から漁港まで10キロもありません。事故で全町避難を強いられ、3年前に沿岸部など一部で避難が解除され、漁業の再生へ努力が続けられています▼ところが政府は地元の思いなどお構いなく、原発事故で出た放射能汚染水を処理した後の高濃度のトリチウム(3重水素)を含む水の処分方針の決定に向けて動いています。先日、業界や首長の意見を聞く会合を福島市で行いました▼政府の小委員会が、トリチウムを薄めて海や大気に放出することが「現実的な選択肢」とする報告書をまとめたのを受けたもの。処分方針の決定を急ぎたいのか、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になる中でも開催しました▼しかし会合では、県漁業協同組合連合会会長が訴えました。「若い後継者に将来を約束していくためにも海洋放出に反対」と。県森林組合連合会会長も「放出となれば住民が帰れないのではないかと不安がある」。首長からは「決して期限ありきではない対応」を求める意見などが相次ぎました▼浪江町でも町議会が海洋放出に反対する決議を全会一致で可決しています。「漁業者の生産意欲をそぐばかりではなく、…町の存続にも関わる重大な問題」であり「被災者にさらなる苦痛を強いる」と。政府のやろうとしていることの理不尽さです。

(「しんぶん赤旗」2020年4月10日より転載)