自宅近くの公園に、武蔵野の自然林を生かした散策路があります。春風にゆれる若葉の間を舞う鳥たち。足元には赤紫のゲンゲの花が咲いています。身を置けば、すがすがしさとともに生きる力がわいてきます▼国土のおよそ7割が木々に覆われる日本は世界有数の「森の国」。その番人として森を守り育ててきたのが作家のC・W・ニコルさんでした。英国のウェールズに生まれながら、長く日本で環境保護の活動に携わってきました▼自称「ケルト系日本人」。柔道や空手を通してあこがれた国に22歳で訪れ、ブナの森で涙を流すほどの感動につつまれます。その後、信州の黒姫山麓に居を構え、バブルで荒廃した森を少しずつ買い集めて再生させていきました▼長良川の河口堰(ぜき)、諫早の干潟、福島の原発事故。国による環境破壊に反対する運動の場には、いつもあの大柄でひげ面の人懐こい笑顔がありました。そして自然から遠ざかり、大切にすべきものを失っていくこの国を憂えていました▼東日本大震災後、本紙日曜版に登場。原発ゼロへの思いと再稼働に走る政府や電力会社にたいする怒りを口にしていました。「私は日本が大好きです。みんな黙ってほしくない。善良な人が沈黙すると、『悪』がはびこるという西洋のことわざがあります」▼多様な命が息づく森づくりは未来を信じること。それは、人間の社会にもつながると。森に励まされ、異国を愛し、人と自然を愛しつづけた79年の人生。その生き方から教えられることは多い。
(「しんぶん赤旗」2020年4月9日より転載)