避難解除後も続く故郷喪失 被害長期化・固定化が進む
東京電力福島第1原発事故から9年。福島県沿岸部の楢葉町、浪江町、大熊町、双葉町、富岡町などの住民が東電に損害賠償を求めた福島原発避難者訴訟(早川篤雄原告団長、216人)の控訴審(原告、被告ともに控訴)判決が12日、仙台高裁であります。判決を前にして原告弁護団幹事長の米倉勉弁護士に控訴審で問われていることについて聞きました。(菅野尚夫)
この裁判は原発立地地域の住民が訴えた訴訟です。全国各地の集団訴訟における初の高裁判決です。
福島地裁いわき支部の一審判決(2018年3月)は、原告が避難慰謝料と故郷喪失慰謝料を請求しているのに、二つの請求をまとめて算定して一律70万円ないし150万円の低額賠償となりました。
尋問・検証
原告弁護団は、一審判決の誤りを正すために、15人の原告本人の尋問を行いました。現地検証(現地進行協議)も実施させました。
原告側専門家証人として、寺西俊一・一橋大学名誉教授(環境経済学)、関礼子・立教大学教授(環境社会学)が証言しました。吉村良一・立命館大学教授(環境法学)の意見書を提出しました。
これらを通じて避難指示の解除後も故郷喪失の実態が継続していることを明らかにしました。
帰還困難区域は今も絶望的な状況に置かれています。
避難指示が解除されても、産業も、雇用も地域は元の状態になっていません。被災地の高齢化も進んでいます。
復興施設は、「新しい街づくり」であっても、元の生活の再興には結びついていません。やむを得ず帰還した被災者は孤立し、困窮に追い込まれ、絶望せざるを得ません。
浜通り全体が前例のない被害を受けて回復していません。人生を丸ごと奪われた被害です。人間らしく社会生活を送る権利、人格権が奪われました。それらを取り返す裁判です。
復興神話
原発事故から9年。国や東電は、「既に復旧した」という空気の醸成と宣伝を強めています。被告らに、「もう十分に弁償した」「これ以上の請求は過剰だ」「まだ金を取りたいのか」という悪意ある見方や批判を広げたいのでしょう。
東電は大津波を予見できなかったし、損害賠償も「中間指針」で十分だと主張しています。東電の加害責任を明確に認めさせること、故郷喪失慰謝料を認めさせることは、今後に続く集団訴訟に大きな影響を与えるものと考えています。
「被害の風化と黙殺」や「復興神話」の宣伝に抗して、「被害の長期化と固定化」への理解と世論喚起に力を尽くしたいと考えています。
(「しんぶん赤旗」2020年3月10日より転載)