いまだ携帯トイレ…
東日本大震災から9年を迎えた今も、被災したままの自宅に暮らしている「在宅被災者」が大勢残されています。復旧以前に実態把握すらされていません。宮城県石巻市の在宅被災者の実情をみました。
実態調査されず
風呂・トイレが使えず、居間と台所以外の床がはがれた自宅に独居する林とみ子さん(70代)=仮名=。トイレは携帯トイレ、入浴は週1回のデイサービスで我慢しています。
行政による在宅被災者の調査は数年前まで実施されておらず、多くが置き去りになっています。林さんは「世間に申し訳ない」と誰にも相談できず、実態が把握されたのは2016年でした。
在宅被災者の支援と調査に取り組んでいる一般社団法人「チーム王冠」がねばり強く行政に働きかけ、修繕費100万円の支援が決定。しかし、修繕工務店への3社見積もりを要求され、受給の足かせになっています。「早くトイレだけでもつけたい。お金が足りたら、お風呂もつけられれば…」と、林さんはつぶやきます。
同市の佐藤悦一郎さん(75)の自宅の床はカビが広がり、歩くと大きくたわみます。腐食が進んだ柱は虫がわかないよう自分でテープで補強しています。
震災時、両ひざに大けがをし、避難所にもいけませんでした。他の病気も連続して患い、今は薬を12種類服用。被災者の医療費負担免除も終わり、月の医療費負担は1万6000円にもなります。
また、市の住宅再建補助事業は、市町村税の滞納世帯は対象外。生活に余裕がない佐藤さんが補助を受けられないまま、3月15日で事業は終了します。
早急に支援策を
佐藤さんは「最後の一軒まで復旧すると言っていたはずなのに、医療費免除は切られた上、家は直せない。あまりに薄情です」と嘆きます。
3月8日、日本共産党のふなやま由美衆院比例候補がチーム王冠の伊藤健哉代表理事と懇談し、林さん、佐藤さん宅を訪れて実態を聞きました。
チーム王冠によると、在宅被災者数は宮城県に6万人、石巻市に1万3000人と推測されています。しかし、いまだに政府も自治体も数や状況を正確に把握できていません。
紙智子参院議員が19年4月に国会で、実態調査を行うよう追及。総務省は同年11月に調査結果を公表するとしましたが、台風19号被害を理由に延期したままです。
伊藤代表は「あれから何カ月たつと思っているのか。情報があればさまざまな対策を検討できる。調査結果は、自治体にとっても私たちにとっても肝なんです」と憤ります。
ふなやま氏は「早急に調査結果を明らかにさせ、支援策を打ち出すことが必要です」と応じ、国へ働きかけると約束しました。
(高橋拓丸)
(つづく)
(「しんぶん赤旗」2020年3月11日より転載)